ゆうとくんへ356. ××× | |
(あの日から幾分寒さも和らいだ黄昏時、向坂家の玄関先のすぐ傍の茂みから少しだけ顔を出した白い箱が置かれていることだろう。リボンや花が飾り付けられているわけではなく、本当に質素な四角い箱。中を開けてみれば丁寧に新聞紙で包まれている丸いもの。それを剥がしていくと、ツルン、と白い皿が行儀良くそこに在ることだろう。和洋中、どんな食べ物だろうと無難に役目を果たしてくれるに違いない非常にシンプルなもの。皿を取り出したのならその下には一枚のメモが入っている) ゆうとくんへ おたんじょうび おめでとう よかったら つかって ください ごめんね (ひらがなばかりのまるで子供のような文字はところどころ震えて怯えているようだった。それ以外にこの箱を持ってきた人物の手がかりはない。もしこれが気付かれなくてもそれならそれで構わないと思っているのだろう。開けてもらえるかもわからない皿はまだひっそりと、暗闇でその時を待っている) |
ぽちさんへ359. さきさかゆーと | |
(玄関先にひっそり、茂みに身を隠すように置かれていた箱。見つけて欲しいのか見つけないで欲しいのか分からなかったが、それを見つけたのは慣れない他人の家の家事…つまり仕事から帰ってきたある日の昼だった。「なんだこれ」と拾い上げて目の高さに持ち上げた箱を左から右から眺め吟味して軽く振って、とりあえず居間で一息付きながら開けてみればシンプルな白い皿が出てきたものだから、パンか何かの応募シールを集めた心当たりがないか記憶を探ってしまった。思い当たる節はなく、代わりに1枚のメモによって別の心当たりに行きついた。その文面とひらがなに込められた感情を想像して、祝ってくれるなら堂々と言ってくれればいいのにと少し口を尖らせつつ、返事は決まっていた) たんじょうびのおいわい ありがとっした、すげえうれしかったです はねつきのぎょーざ、れんしゅうしてまんぞくできるのがつくれたんで、さらつかわせてもらいました われながら、すげーうまそうじゃないすか? またいっしょにつくったり、くったりしたいです (少し古めかしい、若者らしからぬシンプルな便箋にはそう綴られている。同封された写真は羽根つき餃子の山と……それを見上げるような小さなロボットのプラモデル) (どこか不安に怯えるようなメッセージを見た時から決めていた。この皿には絶対に、立派な羽根つきの見ただけでよだれが出そうな餃子を盛りつけよう。ついでにプラモデルも横に添えて写真を撮ってやろう、と) |