恭一郎さん365. 黒野 | |
(恐らくは直接の来訪で郵便受けの上に置かれたと思しき箱。開き直ったかのようにハートの散らされた赤い包装紙だが、良く見るとハートの輪郭は細い葉がくるんと丸まった形でどことなく往生際の悪さが漂っている。箱の中には歯車の形のチョコレートがふたつ寄り添い、銀色の円い紅茶缶が並んで収まっている。そして添えられた手紙には) チョコレートの手作りは製菓用のものを溶かして固めるものとばかり思っていたら、 今はカカオ豆を自分で挽いて作るセットがあるんですね。面白そうなので挑戦してみました。 手でひたすら擂って練って濾しても食感では機械に到底敵わないでしょうけど、こういった作業は嫌いじゃないです。とても疲れましたが。 寄り添って回り続ける歯車はきっと少しずつ摩耗していきますが、その度にメンテナンスをしましょう。それについては専門分野ですからね。 紅茶のことは詳しくないですが、チョコレート菓子が合う葉だそうです。 このチョコレートも、穏やかな時間に寄り添えたら嬉しく思います。 ハッピー・バレンタイン。 |
黒野さんに368. 宿里恭一郎 | |
(郵便受けの上に置かれた箱を一目見て送り主がわかる程度には期待していた。自分が知る彼の性格上、とても珍しい直接的なアピールの包装紙に思わず小さな笑みが零れて、大切に室内へと。包装紙を器用に剥がし、箱を開ければそこには彼らしい世界が広がっている。添えられた手紙を読んで、歯車をひとつ口に運ぶ。)ああ…これは、(市販のものよりもカカオ豆の風味があるような気がする。いや絶対市販のより、というかこれまで食べたチョコレートよりもおいしい。なんといっても愛しい人が己の為に手製でつくってくれたものなのだから。などと、普段誰かがそんな感覚的なことを口にしようものなら速攻でツッコみマシンガン(口撃)を打ち込む男は、今まさにそんな感覚的な感想を当然の如く持っていた。そしてチョコレートの箱と包装紙、紅茶缶を手にいそいそと外出の準備を始める。伝えねばなるまい。チョコレートの味の感想。クリスマスプレゼントに続いてバレンタインの贈り物への礼。そしてこれが一番重要な点なのだが『何故包装紙がちゃんとしたハートでないのか』ということ。拗ねたように唇を尖らせ、冷えた外気を裂くように学芸員は歩を進める。) (気付けば月も星も輝く夜。それでも歩が止まることはない。) 全く、ひどい話です。クリスマスで散々僕を様々な角度から刺激しておいてバレンタインでまさかこんな往行際の悪さを見せられるなんてあんまりだ。…これはちゃんと説明してもらわないといけません。そうですよね?(手には、サンタクロースからの贈り物、壊した世界の戦利品。カギに語り掛ける声は優しく、学芸員は今誰よりも何よりも会いたい彼のもとへと急ぐ。) |