i 利谷さん

366. 鷲宮八慧
... 2020/02/14...Fri // 21:29:58

(彼がいつも通り目覚めたとして。枕元にある眼鏡の隣には、すっきりとしたストライプが描かれた紙袋。念の為に取り付けられた保冷剤と包装紙を除けば、彼の手元に現るは真四角のトリュフケース。グラシン紙に包まれる生チョコは、たっぷりのココアパウダーと抹茶パウダーをその身に纏っている。ほろ苦く仕上げた二色のそれの他に、手紙が一通。さらさらと綴られるメッセージにはふたりの「日常」をのぞかせるように。)

おはようございます、利谷さん。もう夕方でしょうね。
今年もひびマはバレンタインのフェアをやってるんでしょうか。

やってますよね。じゃあうんざりしてると思いますけど、一応。
今日は帰りが遅いので、先にお渡ししておきます。
お返し、楽しみにしてますね。
ハッピー・バレンタイン。

追伸
冷蔵庫に蒸し鶏があります。
好きなように食べてください。

(やや色気がなく、生活感の溢れる締め。冷蔵庫にはしっとりした蒸し鶏が眠っている。いつも通りはいいもんだ。)

e 鷲宮

369. 利谷趣里
... 2020/02/21...Fri // 19:08:17

(バレンタイン当日を迎えたとはいえ、己の一日は変わらず続いていく。強いて言えばバレンタインフェアの片付けをしなければならないくらいで。昨年までならともするとチョコレートを小脇に恋人が自宅を訪れてくれるのではという僅かばかりの期待はあったが、今年はそうもいくまい。陽の短い昨今、己が起床する頃には既に日も沈んで、西陽すら差さない部屋でけたたましく鳴る目覚ましを上から叩きつけるように止め布団から腕だけを伸ばし枕元の眼鏡を呼び寄せたのち装着、それから)――…………まじか。(まさかあるとは思ってもみなかった。枕元に置かれた紙袋に見覚えはなく、だからこそ誰からの贈り物であるのかは一瞬で知れた。まさか置かれているとは思わなかった、と一瞬で覚醒した寝起きの頭をぼり、と掻いて。この男にしては丁寧に、恭しく箱を取り出しては中身を覗き込んで、)…………手作り?(どっちだ。手作りなのだとしたら精巧すぎる。むむ、と眉を寄せて、それから添えられた手紙に気が付いて今度はそちらの封を開けた。)……むし、どり、(恋人達の記念日の間に差し挟まれた生活感。思わず小さく噴き出して、ここからは見えないものの冷蔵庫のあるであろうキッチンの方を振り返った。当日に贈り合うのが理想だとは分かっていながらも既に夕方。自然と丁度一ヶ月後に思いを馳せて――)……来月は俺が鶏蒸すってのどうよ。いやだめか。(まず思いついた発想に自分で首を振る。例年とは少し形を変えた、けれど楽しさは変わらぬ、お返しを悩む一ヶ月間はこうして幕を開けた。)


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