e アンバーさんへ

177. 山田太郎
... 2017/02/14...Tue // 11:47:45

(思い出したように差す晴れ間は、寒さの底と言われる如月に束の間の暖かさを齎していた。コートの裏地を外しても外を歩くのに支障がないのは喜ばしい。いよいよ三月になったら、このフロックコートもクリーニングに出してまた仕舞わなくては。今年はこれを着ている間、実に色々な事があったものだ。そんな事を思い返している内に墓地に辿り着き、更にその奥。佇む管理小屋へ。やがて見えてくる山小屋のような趣ある外観を、かつて訪れたあの日のように見上げて――小さく、笑みが零れた。本当に自分ときたら進歩がない。けれどそれでも良かった。何度でも、込み上げる温かな感情が褪せないのは良い事である。チョコレート色の紙袋に白いリボンを結んだそれは、チョコレートを入れるには些か大きい。かさりとも、ふわりとも、なんとも空気を含んだ音を立てるそれを片手に扉へ視線を落とす。ノックをしかけたところで屋内に人の気配がないのに気づき、少し迷ってから、思い直してドアの所にそれをかけた。ポケットからメッセージカードを取り出し、一度額にこつんとそれを当ててから、紙袋へと滑り込ませた)

トリュフチョコレートがお嫌いでないといいのですが。
何味が好まれるかわからなかったので、色々と入れてみました。

マフラーの長さについてはお許しください。
本当は二人分、別々に編むつもりだったのですが、
どうやらよほどの仲良しのようで。
気づいたら繋がっていたのです。不思議です。

何はさて置き。いつも有難うございます。
これからも、どうぞ宜しくお願いしますね。
ええ、色々と。

(紙袋には丁寧に畳まれたベージュのマフラー。手芸店で材料を買い求め、本と睨めっこしながら編み上げたものだが――うっかり自分の分の毛糸の玉まで継いで作ってしまった。およそ毛糸を20玉ほど使い切って我に返った、それを処分して作り直そうか散々迷ったものの、ある事を思いついたため、そのまま一緒に入れておいた。その上には六つのトリュフチョコレートが整然と並べられた小箱がひとつ。定番のミルクチョコレートに始まり、抹茶、クランベリー、クラッシュナッツ、ミント、最後は洋酒の入ったものまで。一つでも気に入る味があったら、来年はそれ一択にしようと目論んでいるのは神父のみぞ知るところ。後ろに手を組んでくるりと踵を返せば、鼻歌混じりに教会へ引き返そう。今日も、いい一日になりそうだ)

c 山田神父殿

179. アンバー
... 2017/02/14...Tue // 14:29:50

(墓地の清掃を終え、少し遅い昼食をとりに管理小屋へと帰還した男。シャワーを浴び、首にかけたタオルで濡れ髪を拭きながらソファへと腰をおろした。そう今日はバレンタイン。彼と恋仲になって数日、期待は勿論していた。無論自分も用意をしてあり、後ほど手渡しにいこうと思っていたがどうやら先を越されてしまったらしい。どうせならば顔を見たかったが彼も忙しい身、贅沢は言うまい。テーブルに広げた紙袋の中身を手に取る。)…へえ、……(小さく感嘆の息が漏れる。蓋を開けるとチョコレートが6つ。そのどれもが種類が異なり、しかも手製だということはすぐにわかった。たとえ既製品だろうがなんだろうが、相手が彼であればどのようなものであれ嬉しさは伴うものの、これほどの手間と時間をかけた品とあれば嬉しさもひとしおである。自然口元が綻び、蓋を閉じる手つきも優しさを帯びた。これは後程食事のデザートにいただくことにしよう。晩酌のあてにするのもいいかもしれない。先日良いワインを友人から譲ってもらったところだ。チョコレートの感想はすぐにでも伝えたいからポケベルで飛ばすことにして。ことり、と箱を置き、さてはて問題は、)…………(テーブル一面に覆うように広がったマフラー。井戸端で話していたが、まさか本当に編み物に取り組んでいるとは。出来は上々、整然と網目が並び随分と暖かそうな代物だ。色合いも良い。彼のセンスはやはり自分好みでもあると実感する。手に取ると、だらんと垂れる其れ。首からかけたタオルを外し、試しに首に巻いてみる。ひとまき、ふたまき。長い。果てしなく長い。一体何メートルあるか測ってみたくなるほどに連なる毛糸。メッセージカードを読めば、”気づいたら繋がっていた”だって? 声をあげてひとしきり笑う。)…ったく、しょうがねえな(笑み滲ませ呟いた声は、愛しさを仄めかせた。、マフラーを外し、丁寧に折り畳んで表面をひとなでする。彼が手芸が得意とは聞いたことがない。おそらく一生懸命、一生懸命、時間をかけて編んでくれたのだろう。それこそ、二人分の毛糸を編んでしまうほど男の為に熱中してくれた。マフラーはこの長さでは使えない、けれど彼の想いが何よりの贈り物だ。)

(さて、身支度を整え、食事を済ませた男は早々に管理小屋を後にする。目指すは教会。携えるのは黒い紙袋である。中身は日頃男が愛飲している珈琲豆の入った袋。これは神父である彼が、おそらく信者からバレンタインにチョコレートを幾つか貰うだろうことを見越しての贈り物である。彼のことだ、誰から受け取ったにしろそれを蔑ろにすることはしまい。時間をかけても食べるだろうことを考え、その供になればと。そして小箱がひとつ。ここには低温でじっくり焼き上げたさっくりメレンゲに苦みに特化したガナッシュを挟み込んだ菓子が詰められている。もともと料理は趣味として嗜む男。多種あるレシピの中選んだのが食感楽しいメレンゲショコラだった。彼が吸血鬼であることも考慮して、”隠し味”も少々。これが深い味わいを引き出すことは確認済みのこと。2月の中旬は忙しいとポケベルで記していたように、おそらく手渡しは難しいだろう。が、それでも当日に届けるが為、足を進ませる自分は、どうも年甲斐もなく浮かれているようで、しかしてその心持は悪くはない。
やがて教会へ辿りつけば、対応してくれた事務の青年へと紙袋を預け、その場を去った。出掛けに紙袋にいれたカードには一言だけ綴ってある。苦い珈琲に苦いチョコレート、だから言葉は多少、甘ったるくともいい。)


You’re my Valentine.




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