サチさんに178. 山田太郎 | |
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(あれこれ悩んでから、やはりここはガナッシュにしようと思い至る。ただ固めただけのチョコレートより、口溶けもまろやかで美味しいそれを箱に沢山詰めた。生チョコが美味しいというのは完全に己の主観に依ったものであるが――人は贈り物をする時、相手の好きなものを探すが、最終的に細かな選別をする際には自分の好みを忍ばせるものであるとは師の談。未だ本土にいるだろうあの破戒的な司祭の耳に、不肖の弟子がバレンタインにチョコレートを作ったなどと届いたらどんな顔をするだろうか。メッセージカードとを添えた箱に、きゅ、と桜色のリボンを結ぶと小さく笑った。否、きっとあの男はそんな事では驚くまい。袋にはチョコの入ったそれと、上にはちょこんと――先日話していた道明寺を。少し気が早いかとは思ったが、偶然にもこの時季に桜の葉の塩漬けが手に入ったものだから、一緒に作って添えよという神の思し召しと受け取ったのだった。教会を出てすぐ、顔なじみの子供から『いつもチョコを食べている、おおむね不機嫌そうだけど僕達に構ってくれる大好きなサチ』の家を尋ねて道を辿った。見えてきた寮、目的の場所の前で立ち止まり。さて、この大きさならばポストに入るだろうと――ことん) お約束の品物を、日頃の感謝と共にお届けに参りました。 どうぞお納めください。 (メッセージカードにはそんな一言が。今日は暖かいから、なんだか春が来たものと錯覚してしまう。踵を返せば黒衣は去っていった。約束を果たせた、清しい気分と共に) | |
---182. サチ | |
| (今日も今日とて呼び出しを受け、実にクダラナイ用事を片付けて寮へ戻って来る頃には空はすっかり朱く染まっていた。不機嫌に不機嫌を上塗りした顔で鍵を回せば、かさり。片手で抱えた紙袋が小さく音を立てる。香る甘さに表情を緩めるどころか舌打ちをし――ふと、10日程前の会話を思い出してポストを開ける。)………日頃の感謝…?(メッセージカードに目を通し眉を寄せたのは感謝される覚えが全くないからだけれど、差出人を思えばそう不思議でもない。自室に入れば炬燵に腰を下ろして箱に手をかけようか。予想外の物まで入っていた事に僅かながら漆黒を揺らし、再び記憶を辿りつつ、まずは一口齧り付いた。ゆっくりと、冬が融け始めていた――) | |