花野へ180. 鷲宮八慧 | |
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(本日の主役である名探偵のもとに届くのは、その瞳によく似たエメラルドグリーンの包装紙が爽やかな折り箱。掛けられた白色のリボンを解くと、彼の目の前に十数個のマカロンが姿を現す筈だ。貝殻の形をした菓子の風味はミント、フランボワーズの二種類で、軽やかな生地に挟まるクリームの口溶けもなめらか。味だけでなく見目も優れる菓子に比べ、添えられたバースデーカードの内容はひどく簡潔に。) 誕生日おめでとう。 あの時は有り難う。色々と。 (自宅まで手を引いてくれた事か、将又その後も傍に居てくれた事か。何に対する有り難うかも告げないで、差出人の男はえらく満足気だった。おめでとうと有り難うさえ揃っていれば、あの優秀な探偵は隠された気持ちも見つけ出してくれそうな気がしたから。) | |
八慧さんへ183. 花野紅 | |
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(――リボンを解く瞬間は、いつもどきどきする。しゅるりと白いリボンを解き、エメラルドグリーンの包装紙を破れないように丁寧に外して、折箱をそぅっと開いた探偵は、包装紙と同色の双眸をキラキラと輝かせた。まるで海を閉じ込めたみたいだ。添えられたカードに綴られた文字を指で辿りながら何度も何度も読み返して、もう一度可愛い貝殻を見て、唇をむずむず。食べたい、眺めていたい、お返事を書きたい。わっと溢れた感情は、さて、どれから拾おうか。ぱちぱちと数回睫毛のシャッターを切って、ぴょこんと弾むように立ち上がる。) いっぱい、いっぱい、ありがとう…! また一緒にご飯食べようねぇ? (弾むような文字は猫のシルエットがポイントのポストカードに。王冠のスタンプをぺたんと押して、その上に宛名を書いた。ゆるゆるに緩んだほっぺたは貝殻にキスをすると落っこちてしまうかもしれないから、マカロンを食べる時は両手でしっかりほっぺたを押さえておくことにしよう。今日はとっても素敵な日!) | |