白菜神父187. サチ | |
| (修理の対価として野菜や果物をこれでもかと詰め込んだダンボールを得た男は、全て持ち帰ったところで腐らせるとわかっているのでそのまま通い慣れた某所へ足を運ぶ――途中、今日も元気なクソガキ共に絡まれ腰や足にしがみ付かれれば両手が塞がっている故に剥がす事が出来ず、仕方なく言葉を交わす内に本日がただの平日でない事を告げられ男もそのイベントの存在を思い出したらしい。「ちょっと離れろ、…バカ逃げねェから」と、一度ダンボールを下ろしてしゃがみ込みがさごそ。その際果物を幾つかチビ共にぽいぽい投げるのも忘れない。やがて新聞紙に包まれていた小振りの白菜を見つけると「これ教会に持ってっといて」と押し付ければダンボールを抱え立ち上がる。突然任務を与えられた良い子なクソガキ共は、ただの果物だが先月のお返しを貰えて一応満足したのだろう。しょーがねーなー!なんて言いながらも楽しそうに笑って駆けて行ったので、男もまた目的地へと足を向けた。) | |
サチさんへ189. フライパン白菜神父 | |
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(つまり彼もまた死が怖かったのでしょうか。――真昼の聖堂、信徒の一人から掛けられた問いに応じる神父の声は、常の胡乱なものとは程遠い。地に足がしっかりとついた思慮深さをもって、淀みなく己の解釈を語る。自伝ではない以上、そもそも記した弟子各々の解釈によって成り立っている。書物の中で、あの情景は彼もまた人の子であるという事を読み手に印象付けたかったのではないか。そのような事を返した折、ふと教会の扉からこちらを呼ぶ幼い声が明るく響いた。口元に当てていた手を下ろし、意外そうにそちらを見ると議論を交わしていた相手に中座を申し出て出入り口へと。しゃくしゃく、むしゃむしゃ。数人の少年達は各々どこか誇らしげに手にしたリンゴやミカンを食べている。なんと、美味しそうな事。その瑞々しさに目を瞬かせていると、唯一まだなにも食べていなかった一人から新聞紙にくるまれたそれを差し出された) ――、頂いて宜しいのですか? (慌てて膝を突いて受け取ると、それを託した相手の名前にまたも驚き。小振りながら雪のような白さとふんわりと空気を抱いて甘そうなその白菜に、思わず破顔した。お役目を果たした彼らが駆けだそうとするのを思わず引き留めて、数分。ばたばたと後ろへ引っ込んで白菜を仕舞ったかと思えば、教会の裏手に咲く花からフリージアとスイートピーをいくつか、銀の鋏で切り薄紙に包んでまた戻ってきた。申し訳ないんだが、これをサチさんにお願いできますか?――少年達、目をぱちくり。これではまるで郵便屋のようだとめいめい顔を見合わせて足踏みするも、神父が差し出したビスケットを見て、快く引き受けてくれた。すっげー、今日のおやつチョー豪華!なんてはしゃぐ彼らが微笑ましい。お返しにお返し、というのも少しややこしいかもしれないが、何かせずにいられない性根である。転ばないように、と声をかけつつ郵便少年団を見送って。事の一部始終を見守っていた信徒は穏やかに笑っていた。山田神父、白菜がそんなにお好きなのですか、と冗談交じりに問われれば、) ええ、大好きです。…何を隠そう、私は…白菜神父、なのです。 (そんな軽口を紡ぐ瞬間すら喜ばしい。実に穏やかなホワイトデーだった) | |