真幸さんへ204. 鷲宮八慧 | |
| (先々月末の非礼を詫びるつもりか、彼のもとに届くのは大振りの段ボール箱。封をするガムテープを剥がせば、虹色に染まる春の世界がわっと広がるだろう。手当たり次第に詫びの品物を詰め込んだらしく、段ボールの中は非常に雑然としている。加工された桜の花弁が綺麗な栞やキーホルダーから始まり、様々な祈りが込められたお守りは十数種類。他には春香る石鹸、紫色に仄か輝く桜のイヤリング、溶けると虹色の花弁が漂うバスボム、カクテル作りに最適な桜リキュール、箸置きや小皿、しまいには虹の桜を用いた菓子類まで。底に敷かれる便箋には「有り難う」、「あの夜はごめんなさい」の二言のみ。あの夜に交わした約束について言葉を綴るのはおこがましい気がして、到頭書くことは出来なかった。──贈り物の量然り、メッセージ然り。あまりの自分勝手な行動に、ますます嫌われてしまいそうだ。そう気付いたのは配達員にこれを託し、ほっと一安心した後のことである。) | |
−−−206. 真幸 | |
| (あの出来事から暫くして、平和な日常を過ごしていた真幸の家に届いたのは一つの大きいダンボール箱。届いた時に驚き、箱を開いてみたならあらゆる種類の春ならではの贈り物をみてはさらに驚いた。春の訪れをこのような形で実感するとは思わず、箱に入っている様々な品々をじっくりと見てみては、テーブルの上に並べていく。そして、最後にはこの春の送り主である人物が書いたであろう簡潔な言葉が添えられている便箋を手に取ると、ようやくこのプレゼントの送り主の正体の合点がいったようで、優しく笑んだ。彼からの贈り物は全て大切に使うとしよう、そう意気込みまずは一番に目に入った桜のイヤリングを片耳につけてみて、煙草をふかしながら鏡から垣間見える自分の耳を飾っている紫の桜を見つめる。ーーこれはまた乙なものを贈ってくれたもんだと、彼に感謝しつつ今度会ったらその意を直接口にしようと決めて、吸い込んだ煙草の煙を天井に思いっきり吹きかけた。) | |