i 山田サンへ

251. 向坂侑人
... 2017/10/19...Thu // 20:19:37

(友人へのメッセージカードや父親へのメモと違って、多少でも改まった手紙というのに慣れていない。葉書…では違うような、便箋と封筒はセットのものを使えば良いのか、いろいろと考えたものの、結局父親のものを拝借してシンプルな──「田舎の親から届いた小包に同封されていそう」と本人は思った──白い封筒に便箋。封筒は中が透けないよう紫の薄紙がついている。そこに記される宛名や差出人の文字は、どこか古風な封筒には似合わないざっくりとしたものだ)



手紙、ずっと書こうと思ってたのに遅くなりました。こういうの慣れてなくて、季節の挨拶とか書いた方がいいのかも知れないけど省略させてください。なんか照れ臭いし。
2月のときは、いろいろ言い過ぎてすみませんでした。オレはやっぱり山田サンの考えと違うところがあるし、いろんなこと、ちゃんと分かるのにまだ時間がかかると思います。でも、言いすぎたっていうか。相手を尊重するとかそういうのが、足りなかったんじゃないかなって、後から思ったんで。
オレは山田サンのこと、まだ全然知らないんだと思いますけど。やっぱ、それでも、山田サンがこの島で楽しく暮らせるんならそれが一番いいって思います。…何書いてるのか分かんなくなってきたな。

最近急に寒くなってきたんで、風邪ひかないように気を付けてくださいね。


P.S. オレ、あの日からいろいろ考えて、新月の夜に出歩くの休んでます。今考えてることにケリがついたら、休むんじゃなくてやめるのか、やっぱりやるのか決められるかな。


(流石に、普段話すような言葉で書くものではなかろうと思う。しかし図書館で調べた手紙の書き方の本は言葉が堅苦しくて、自分がそれを書いたら上っ面のものになりそうで…普段よりほんの少し言葉を丁寧にしただけになった。投函してから、手紙を書く練習をしておけばよかったと渋い顔をして…けれど家路につく足取りはどこか軽やかに)

a 侑人くんに

252. 山田太郎
... 2017/10/20...Fri // 21:42:32

侑人くん

先日は手紙をどうも有難う。
時候の挨拶はこちらも省略させて貰った。いかなる天の下であっても主の恩寵のもと、君が麗しい日々を送れるようにいつも祈っているよ。

最近は秋らしからぬ天候が続いているからね。侑人くんも風邪など引いていないかな。疲れが見えた時には無理をしないように。
こんな寒さでは、あの二月の事を思い出してしまうのも道理だろう。
周知の通り私は喋るのが仕事だから。自論を語るのも、相手の意見を聞くのも全く苦ではない。何より、君の態度はどこまでも誠実だった。
謝罪が必要だとするならば私の方であったと思う。大人げない言動ばかりで君を困らせてしまったね。
過ぎていく時間の全てが君の味方であるのは疑いようのない真実だ。
言葉と牙で傷をつけてしまった事実を忘れはしないから、どこかで君なりの答えが出たら聞かせて欲しい。

ただ、私はあの日の夜に君の供ができた事を誇りに思っている。


(封筒、便箋共に白地のシンプルなデザイン。便箋の上部には四葉を銜えた白い鳩の絵が描かれている。流れるような文字の随所に見られる几帳面な止めや撥ねが、文字を綴った書き手の人間性を曖昧にしていた。一枚目の文章の終わりに余白はたっぷりあったというのに、追伸は意図して二枚目に記されている)


追伸
山田太郎の勘は当たらないと、本土の教会では昔から評判だったが。
思うに君は、他者を想って今後も新月の夜に出掛けずにはいられない。
そんな子であると思うよ。


(書き綴られた手紙は丁寧に封をされた。青銅製の丸いペーパーウェイトが投函の日を待って番をしている。恐らく、この郵便が投函されるのは明日、21日の朝方になるだろう。その日になれば何食わぬ顔で始まる一日と共に、無事に手紙はかの青年の許へ届けられるに違いない)
(20日の夜更け。私室として使用している教会の屋根裏部屋に神父の姿はなかった。机上に置かれたままの白い手紙に降る光は星影のみ)
(思い出したように細く、冷たい雨の落ちる夜。空に月の姿は見えない)


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