g 前略、暗夜景虎様

266. 山田太郎
... 2018/02/14...Wed // 16:20:51

(去年はトリュフチョコレート、それと編みすぎてしまった長い長いマフラー。その贈り物を脳内で思い出しつつ、神父はぼんやりと今年用意したその品物を眺めていた。――意表を突こうと思った。思えばホワイトデーのお返しといい、クリスマスの予期せぬ贈り物といい、彼には予想外の素晴らしい品物を貰いっぱなしの身である。ゆえに。今年は自分も気合を入れてお約束からはみ出してやろうと意気込んだ。『重さにして10キロは数える』それをテーブルに置いて、ふむ。思考、黙考、そしてよしと気合を入れた。両手で『それ』を抱え上げると集荷をお願いしていた郵便局の青年が戸を叩いた。よいしょ。携えた品を丁寧に持ち直すと、勝手口へと向かい――配達人を出迎えると、うわあという声。神父さん、これを本気で届けるんですかと問われれば、本気ですと必要な伝票類にサインを走らせてから、更にもうひとつ。小さな紙袋まで添えて。――恐れ入りますが、これでどうかお願いします。言うまでもなくあちらも仕事。いやあ、これ、マジですか、マジかよ、リア充の聖職者超こわい。そんな呟きが聞こえた気もしたが、ぱたりと扉を閉めて足取り軽く仕事へと戻る。やったぞ、やってやったぞ。彼は驚いてくれるだろうか)

(――それから間もなく。彼の在宅を確かめた上で郵便の配達人が墓地の管理小屋へと訪ねにやってきた)
(手には冗談のような、約100本の真っ赤な薔薇の花束。――失礼。正確には101本である)
(本当は999本を目論んでいたのだが、そんな数は当日までにとても用意できないと花屋さんに蒼褪められ、そんな数はとてもじゃないが運べないと郵便屋さんを戦慄させてしまったので、今年はとりあえず諦めたのだった。添えた紙袋が随分と小さく見えるその中には小さな箱、去年も贈ったトリュフチョコレートを詰めてある。味はクラッシュナッツ、洋酒のものに絞ってそれぞれ3つずつの計6個。本邦のバレンタインと言えばチョコレートがなければ始まらないというお約束、それと去年聞かせて貰った感想を参考にした結果であった。花束にたった一枚添えた真っ白な名刺大のカードは銀の箔で縁どられたもの。この花の数で伝えたい事は語れようと思えば冗長さを省き、期待を隠し切れない文言が一言だけ躍っている)

『 驚きましたか? 』

(――えーっと…受け取りにサイン、貰ってもいいですかね…?)
(半ば花に埋もれるようにして配達員の声が問う。そろそろ手が痺れてきたらしい)

c Dear my love

268. アンバー
... 2018/02/15...Thu // 06:50:03

(2月も過ぎれば島内のそこら一帯にほんのりと甘さが香る。商店街にもバレンタインの文字がちらつき、買い出しに出ていた男もまた昨年同様、ごく自然に店の軒先に並ぶチョコレートを手に取り、丁度切らしているバターやら薄力粉やらとまとめて気付けば購入していた。もとは製菓会社の陰謀だと誰かが井戸端で話していたが、ここまで浸透してしまうともはや楽しんだもの勝ちである。さて、今年は何にしようか。恋人を想いながら世間の波に乗り、思案巡らすも、また、楽しい。)

(結局買い出し中に何を作るかを決めきれなかった男は、バレンタイン当日。テーブルに並ぶ材料を見て思案に耽っている。昨年は確かメレンゲショコラと珈琲だったはず。今年はもっと何か、気の利いた…何かを、と欲を出して、脳裏に浮かんでは消えていくチョコレート菓子達。ガトーショコラにアマンドショコラ、生チョコに、ブラウニー、トリュフ。どれも美味しいが、どれも無難な気がして結局製作に取り掛かれずにいた そんな男の耳に届く、思案遮る来訪者の声。頭の隅に考えごとを残しながら、扉を開け)――っ!?(一瞬にして目の前が鮮やかな赤に染まった。吹っ飛んだ思案。目を丸くし、困惑を感じる前に赤の洪水とむせ返るような花の香りに包まれ、呆然とノブを掴み扉を開けた体勢のまま固まる。これはなんだ?真っ赤な、薔薇だ。真っ赤な。…薔薇が俺に何の用が…、茶でも飲みに来たのか。と良い感じに困惑に片足を突っ込み始めた 間抜けな面の男の正気を取り戻すように、花束はふぁさふぁさと揺れ動いて。「墓守さん、はかもりさーん、郵便屋です。ちょ、前見えねえ!ボリュームが凄すぎて…ここです、ここ!」と郵便屋がひょっこりと花束横より顔を覗かせる。そうでなければ、おそらくあと1、2分は呆然と立ち尽くしていたかもしれなかった。)あ、ああ……(上の空。圧倒された男へ受け取りサインを求める声に流されるまま己が名を記入し、バラの花束と紙袋を受け取る。「あー、重かった!すげー重かったです。これが愛の重さですか、はは。リア充って身体鍛えられそうですね」なんて言葉を残して去る配達人を礼をもって見送った。抱えきれぬほどの花束と紙袋と共にリビングへ、そっとテーブルへ置き、添えられたメッセージを読み、心地の良い敗北感に瞳を和ませる。108本の薔薇をだなんて冗談みたいな戯れを、去年のクリスマスに考えていた己からしたら、まさしく、驚いたし、何より”先を越されてしまった”ように感じて。)……ったく、悪戯坊主が。(紙袋から箱を取り出して中を確認すれば懐かしいチョコレートが。己の好みを覚えていてくれたのか、昨年特に美味いと感じたものが並んでいる。これは後で美味しく頂戴することにして、花束から一輪特に良質そうなものをそっと抜き取った。花弁へ愛しげに口づけ、共にキッチンへ戻る。―――赤い衝撃が薄れぬ前に、取り掛からねば。)

(まさか連日薔薇を運ぶことになるとは思ってなかったなあ…、とバレンタイン翌日の朝、昨日墓地管理小屋へ訪れていた配達人の姿は教会に在った。「神父さーん、お届け物ですよ」。その手には、赤薔薇1輪と紙袋。紙袋内には墓守が愛飲している珈琲と箱がひとつ納められている。中身は、蓋を開けた相手が、一瞬見間違えてくれればと精巧さを目指して作り上げたプラスチックチョコレートの薔薇。添えられているのは手触りの良い和紙のメッセージカード。)

『してやられた。
 足りない分は俺が補っておこう。』

(生花が一輪、チョコレートのが六輪。どちらも甘く、甘く、香っている。)

e Hey,Mr. Perfect.

269. 山田太郎
... 2018/02/16...Fri // 18:25:04

――おや、おや。
(やってきた郵便屋の青年は、奇しくも先日無理を言ってあの薔薇を運んで貰った職員に相違ない。その件は無理を言って済みませんでしたねえ、とほやほや笑う神父の顔には言うまでもなく、未だ当日の達成感が色濃く残っていた。そんな浮足立った感慨も、運ばれてきた一輪の薔薇でどきりと不格好な着地を見せる)
(花は贈り慣れているが――そういえば、貰う機会はそうなかった。ましてや真っ赤な薔薇などは冗談でも受け取った記憶に乏しく――さて、この島には薔薇を前にすると思考停止してしまう人物が多いらしい。神父さん、神父さーん、おおーい、サインー、受け取りのサインくださーいってばー…!)
…、ふむ。…有難うございます…君が呼び戻してくれなければ…一日中ここで呆けてしまうところだった。
(またまた冗談を、とも言い切れない所がこのぼんやり神父の怖い所である。さらりと書いた受け取りの印と引き換えに品物を受け取った。ぱたん。後ろ手に戸を閉めつつ、手触りのいい和紙のメッセージカードへ書かれた『してやられた。』の一言に、ふふふ、そうでしょうそうでしょう、と一人笑みを噛み殺しきれずにいたが、)

…。足りない分…?

(長い廊下の途中。はたと立ち止まり、行儀が悪いとは分かれどもかさりと袋を開けて。中からお目見えした精巧なショコラの花に、ぱちり、目を瞬かせ)

――。

(言葉を失い、)

――、…あぁ、もう…。

(やられた。完全にやり返された。ふらふらと再び歩き出す足取りに、先程までの軽やかさはない。猛然と駆け上がる頬の熱に脳の芯まで痺れてしまいそうなほど。片手で目元を覆うもうっかり歩みを止め損ねたので。がつん。ごすん。みっともなく壁にぶつかれども気を回す余裕もなく、よろよろと事務所を通り過ぎて。とりあえず、頭を冷やすべくキッチンへと舵を切った。この一輪を活けるための水と、チョコレートに合う珈琲も用意しなければ)


(愛を伝える代表的なこの花は、本数によって細かく意味合いが定められている。101本の薔薇は最愛。999本は何度生まれ変わっても貴方を愛する。108本は確か、結婚してください――併せて、1本の場合は一目惚れ、だったか。奇しくも『たった一つを除いて』そのどれもが自分達のやり取りで既に交わされた言葉達だった。先日相手の誕生日に渡し損ねた本当の贈り物と一緒に、さて。最後に残されたひとつを本当に誓い合える瞬間はどんな日になるだろうか)


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