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279. ×××
... 2018/05/06...Sun // 04:09:05

(世間は連休中ということもあり、いつも賑わいを見せている学院はがらんとしている。とは言えこんな小さな島、固く施錠がされているわけでもなく忍び込むのは容易い。なんだか違う世界に来たみたいだ、なんて思いながら職員室の扉を開ける。他の場所と同様に、そこには誰もいない。以前生徒たちに教えてもらった机はそのままだといいが…と用心しながら、水色の袋がその上に置かれる。ネイビーのリボンは若干よれていて、蝶々結びが縦になっている。リボンを解いて中を見れば、サッカーボール程の大きさのまるまる太っているイルカのぬいぐるみがひょっこりと顔を覗かせることだろう。イルカの傍には、相変わらず下手くそな文字で書かれた手紙が置いてある)

いちじょう せんせいへ!

おたんじょうび おめでとう ございます!
まるい いるか かわいかったから あげます!
かわいがって あげて ください!

ぽち

(真っ白い便せんに、いつもよりほんの少し丁寧に青色鉛筆で書かれた文字が躍っている)


(その場から去ろうと扉まで歩いたところで、もう一度机に戻る。リボンを解き、中に入っている手紙より一回り小さなメモを取り出すと、乱暴にパーカーのポケットに突っ込んだ。そしてもう一度リボンを結び直し、思いつめたような表情を浮かべる。数十秒程そうしていたかと思えばくるりと向きを変え、出口へと足を進めた。その時気付かないうちに、ポケットに突っ込んだ筈のメモがひらひらと落ちた。よっぽど注意して見なければ気付かないだろう机の下に落ちてしまったものだから、本人すらそれを知らないまま職員室を後にする。メモに書かれた文字は酷く乱雑で、読みにくいものだろう。文章の隅には、丸く透明な染みがあった)

やくそく やぶっちゃった から
おれは もう いちじょうさんと いる けんりが
ないかも しれないです
ごめんなさい

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280. 一条陽
... 2018/05/06...Sun // 23:31:55

(連休も終わりを迎える頃合いとなる、自身の誕生日。別段誰かしらとの約束を交わすといった事もなく、毎年がそうであるように、ただの変わり映えのしない1日として消化されるだけであると思っていたのだけれど。偶然、今日が一条の誕生日であると聞き付けたらしい同僚に誘われる形で、空いた昼食を共に過ごす事が出来たのは、職場に馴染んできたという証だろうか。――其の帰り道、通り掛かった学院に足を踏み入れた理由を強いて言うとするならば、連休明けに向けての準備を早々に終わらせてしまおうとしたからで。単純に用意していた教材を自らの座席に置くだけという単調な用事は、学院への滞在時間を短く済ますには十分。それでも、職員室の、自身に振り分けられた机の上。見覚えのない其れに、首を傾いで手に取ったならば。誰も居ない職員室で、ひとり其の箱の中身を確かめるべく、腰を下ろそうと椅子を引いて。はらり、と紙が擦れる音に違和を覚えるも、先に気に掛かったのは袋の方だ。結ばれていたネイビーのリボンをゆっくりと解けば、大きなイルカと視線がかち合って。――くすり、と小さく笑みを零しながら、添えられていた手紙に目を通すのだろう。既に其の時点で、誰からのものかはわかっていたけれど。直接、記されていた名前を見るだけで、改めて表情は綻ぶというもので。)

……直接、会いたいなぁ。

(――だなんて、小さな呟きは、誰に聞き咎められる事もないものなのだが。落ち着けていた腰を上げて、椅子を元に戻す際。床に落ちていた何かしらのメモを拾い上げれば、パーカーのポケットの中へと何となしに入れるのか。其の侭袋にリボンを結い直して、両手で抱えるようにして、自らの家へと戻る事とするのだろう――。)

(其のメモの存在を思い出したのは、自室にてパーカーを脱いだ際の事。そういえば、と特に何のメモかを見る事もなく、何も書いていないのであれば捨てるくらいの心算でいた其の紙に、視線を遣って。見覚えのある字が、けれど普段よりも乱雑に並んでいるのを見て取れば、訝し気に眉根を寄せて。じっくりと、何が書かれているのかを、一字一字ちゃんと読み取るように。真剣な眼差しで、最後の一文までを読み終えたならば。――やくそく。其の言葉の意味するところなんて、考えるまでもない。改めて読み直す事で気が付く事の出来る透明な染みが、一体何かなんて。自分もそうだけれど、彼だってまた、一人で抱え込んでしまおうとする人だから、)

…………ポチくん、

(あいたい。――会わなきゃ。けれど、彼は今何処に居るのだろう。誰かの元に居るのだろうか。色々な感情が浮かんでは、形を成さずに入り混ざって。複雑に抱いた感情は、何と言い表すべきかわからずに。そんな中でも、自分がするべきことなんて、ただ一つだと――そう、思うからこそ。自身の引き出しから取り出した、白地の便箋へと認めた文章は至って簡潔だ。其れを書き終えれば、常より世話になってばかりの配達員を探して、捕まえて。そして、お願いをするのだろう。何処かで泣いているかもしれない、自分にとって大切な人へと、此の手紙を届けてほしい、と。真剣な表情で其れを願い出れば、後は、彼次第。)



いるか ありがとう だいじにするね


P.S.
また ちがう やくそく しようか
なかないで すむような そんな やくそく

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281. ×××
... 2018/05/07...Mon // 23:39:06

(結局配達員が受取人を見つけたのは、翌日の午後だった。海の見える、大きな岩の上。お気に入りの場所に腰かけていた。声をかけられて振り向けば笑顔で礼を言って、手紙を受け取る。今回は差出人こそなんとなくわかっていたが、いつもこの瞬間がたまらなく好きだ。自分の為に文章を綴ってくれたことが嬉しくて、心が躍ってしまう。ゆっくりと、勢い余って紙を破ってしまわないように手紙を開けば、にまっと口角が上がる。―が、すぐに表情が固まり、手が震える。何故彼が知っているのだろう。急いで昨日来ていた服のポケットを漁るが、ある筈のメモが見つからない。落とした場所と言えば、この手紙を見るに一ヶ所しか考えられないだろう。頭を抱えて、図書館へ向かった。リュックの中からペンと便箋を取り出す。散々悩んでから、今回はポストに投函)

一じょうさん

おれは うそつき です
また やくそく まもれない かも
こわい です
また 一じょうさんを きずつける のかも
どうしよう

おれは

(それ以上は書けなかった。ただ悲しかった。初めて出来た大切な人とした約束を、簡単に破れてしまう自分が悲しくて、情けなかった。きっと次の約束をしたって、それを守ることなんて出来ないんだと思うと鼻の奥がツンと痛む)

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282. 一条陽
... 2018/05/09...Wed // 12:24:07

(用事を終えて自身の部屋へと戻って来たならば、習慣として覗いた郵便受けに届けられていた其れに気が付いて。其れを片手に自室へと戻り、上着を脱いだりと落ち着いたところで目を通そう。読み終えれば、文字を指先でなぞって。どのように思いながら、彼がこのような文章を記したのか、その全貌まではわからないけれど。この前と同じ封筒と便箋を取り出して、黒いボールペンでゆっくりと文字をしたためた。改めて上着を羽織れば部屋を後にして、今度はポストへと向かうのだろう。)


おれ、ぽちくんがすきだよ。

うそつきでも やくそく やぶっちゃっても
おれのこと きずつけたとしても
それは かわらない から

おなじ きもちなら だいじょうぶ じゃない  かな?

(――仮に、違う気持ちであったならば。其の場合は、きっと身を引くのは自分の方。けれどそんな事は記す事なく、ただただ、実の処傷付いているであろう彼に対して、自分の言葉が届けばいい。自分の彼に対する想いが、届けばいいと。そう思うのだ。本来であれば、直接告げる事が出来れば一番良いのだろうけれど。彼に其の意志がない限りは、無理強いをする事も出来ず。ただ、彼の為だけに綴る文章が、届く事を願って。)

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283. ×××
... 2018/05/10...Thu // 00:22:37


あいたい


(柴犬の可愛らしい便箋に綴られているのは酷くシンプルな、たった四文字。震えて、縮こまっていて、ボールペンのインクが滲んでいる。紙の隅っこにはくしゃりと皺があって、柴犬が悲しそうな表情を浮かべているように見えなくもないだろう。それは宛先もなく、差出人の名もない。いつの間にか彼の部屋の扉に挟まっていたもので)

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284. 一条陽
... 2018/05/11...Fri // 14:33:13

(部屋の扉に挟まっていた其の紙を手に、呟いた言葉は記されていた言葉と同じものであった筈だ。会いたい。――けれど、何処に行けば、彼に会えるのか。見当も付かないけれど、何もせずに、ただ自分の部屋に居る事は出来なかったから。足は彼を探すように、島中を歩んで。見付からずに居た最終的に辿り着くのは、商店街辺りとなるかも知れない。願わくば、其処で彼と相見える事が出来れば良いのだけれど、)


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