福永くんへ285. 杠霧人 | |
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(5月にしては続く夏日、日中の外出を控えたい青年が歩くは逢魔が時。黒橙に伸びる影を踏みしめ、古びたポストへ投函した手紙一通。指先から離れた封筒がポストの底へ落ちた音が、去る春の、燃えた新月の思い出から己を現実へ呼び戻して。) あれから2ヶ月経ってるけど、福永くんは身体の調子どう? 助かった子供はもうすっかり元気みたい。 火事のこととかすっかり忘れて、図書館でぎゃーぎゃー騒いでて その辺の爺さんに叱られてんのこの前見たよ。 いやしぶといよね、ガキってさ。 図書館で。王子とツバメの物語を読み直した。 で、やっぱりさ。 オレには王子の自己犠牲精神もツバメの献身もわかんなかった。 それでもオレはあの日キミに会えてよかったよ。 それじゃ。また井戸端でね。 (腕には先日図書館で借りた本を一冊脇に抱えて、腕時計を見た。 まだ図書館は開いているはず。序に返却を済ませるが為に、再び歩を踏み出した。) | |
杠さんへ314. 福永正愛 | |
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(手違いで荷物の奥底に紛れ込み、最近になってようやっと日の目を見た想いの欠片。大幅に遅れてしまった返信は、封筒すらどこか遠慮がちにしているような雰囲気を漂わせてポストへ落ちる。) お返事がものすごく遅れてしまって、本当にすみませんでした…! あれから、お陰様で風邪一つ引かないで、くらくらもしないで、健康そのもので過ごせています。 助かったお子さんもお元気だと分かって、安心しました…。 あれからトラウマも残らず、元の生活に戻ってくれたなら…それが何よりですし、嬉しいなあと思います。これからも守られながらすくすく育ってほしいです。 子供の生命力の強さは、僕ももう結構驚かされています…強いですよね。 えっ、わざわざ読み直してくれたんですか…!? ありがとうございます…! 分からないってことを分かるのも、何かを分かるのと同じぐらい大事だと思います。 自己犠牲精神とか献身を理解できることが、正しくて、そうじゃないものが間違っているんだとも…思わないですし。 僕も、あの夜に会えたのが杠さんで、本当によかったです。 僕は杠さんの姿勢というか在り方というか…生き様を見られて、それまで考えもしなくて、見ようともしてこなかったようなことを教えてくれました。 あの時に言われた事、考えた事をこれからも忘れずに、ところどころで自分の胸に問いかけて、生きていこうと思います。 貴重な時間を、ありがとうございました。 それでは…また、井戸端や島のどこかでお会いできる日を楽しみにしていますね。 (一文字ごとに丁寧に文字が綴られ、最後にはデフォルメされた王子とツバメの子供じみた絵を添えて。) | |