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286. ―――
... 2018/05/29...Tue // 17:53:08

(もうそろそろ梅雨がやってくる。鬱陶しくてあまり好きじゃない時期だ。本当ならもっと早くにこの用事は済ませているはずだったのに、時間が経つのは意外に早い。小さな四角いシンプルな包みを握って、わざわざ見回りの時間を狙い主のいない交番へと足を踏み入れる。シンプルな机をじっと見下ろしてその一辺を指先で撫でてから不自然な膨らみをした小さな包みを椅子が仕舞いこまれた机上にそっと置いた。それから適当に机の上にあったペンとメモ帳を勝手に拝借して一瞬悩んだ後に更々と書き綴る。)

お巡りさんへ。
落とし物ではありません。

(うっかりこの包みが遺失物として扱われないように配慮だ。宛名も差出人の名前も包みには書かれていないが特に気にしない。包みの横にその紙を置けば誰かに出会すまえにそそくさと交番を後にした。――包みの中身はカモメのフェルト細工のキーホルダー。少々味わいがあるのは手作りだからだ。中には別にもう一枚紙が入っており『色々と迷惑かけたので。余ったからやる。いらないなら捨てていい。』との文字。面と向かってあの時のお礼ですなんて言える性格なら苦労しない。大人になってまでキーホルダーなんてもらって嬉しい人はそうそういないと薄々感じてはいるがこれくらいしか思い付かなかったのだ。差出人の名前もないのだからきっと文句も言えまいなんて――)

d キーホルダーを届けてくださった方へ

287. 不動一生
... 2018/06/01...Fri // 22:51:18

(――落とし物ではありません。誰が置いたかわからない小さな品物は、警官が一番最初に抱いた疑問へ的確に答えてくれていた。巡回から戻り、水でも飲もうかと通り過ぎかけた事務机。水分を求める早足は緩慢に戻され、メモの添えられた包みをじっと見下ろした)

…。ふむ。

(幾つかの仮定を積み木のように重ねて手を伸ばす。かさり。開いた中から対面したカモメのキーホルダーに目を瞬かせ。同封されていた手紙にもうひと瞬き。そういえば。あの新月の日に、話したのだったか――人懐こいカモメの事を。そうか、ならば確かに、これは落とし物ではない)
(手触りのいい、温もりのあるフェルト細工の鳥を片手に載せ、もう片手で手紙を持つ。憶測は確信に。繋がった点と線、たった一人の交番で浮かんだ笑みを見た者は居なかった。だからこそ、ゆるゆる肩を揺らして、人目憚らず暫し微笑ましさに身を任す事ができたのである。丁重に紙面を畳み机上へ戻すと、つぶらな黒い瞳、黄色い嘴を持つ小さなカモメの頭を撫でる。男でも、可愛いものを可愛いと感じる心は持っているのだ)

(思案事の片手間に撫でていた手をふと休め、ごそごそと漁った制服のポケット。使用頻度は高くないが、肌身離さず持っているポケベルへとキーホルダーをつけた。うん、中々いいぞ。あらゆる角度から眺めて、さあ、掌に収まる小さな通信機器を持ち直し、)
(文章を、打ち込み始めた)


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