b 一生へ。

294. Nico
... 2018/08/09...Thu // 00:28:48

(赤い色の贈り物にしようとは決めていた。だが何を贈るのかは直前まで悩みに悩んだ。正直、これほど悩んだことが近頃あったろうか。手作り、はもう贈ったし食べ物もいいがどうせなら何か残るものを――あれこれ考えた結果、行きついた先はメンズキャップ。もう持っているかもしれないとは思ったが何を欲しいかまでは聞いていないからあっても困らないものを選んだつもり。年中使えそうなコットン素材で全体は黒、ツバと天ボタンだけが赤いものだ。本来は当日に直接がセオリーだろうが何故か家を出たのは暗い夜。パーカーとジーンズ、しかも前髪で顔は分かりにくいとなれば不審者扱いされてもおかしくはないかもしれない。手紙とキャップが入ったプレゼントラッピングされた箱を郵便受けの下に置いてそこで考える。ポストには入らないよな、と。仕方なしに一度だけ呼び鈴を鳴らしておいた。ここは交番。彼はお巡り。となればもしかすると起きてくるかもしれないから。鳴らしたら交番の主が出てくるより前にさっと姿を晦ませておこう。夜闇に溶けやすい様に、服は黒色なのだ――)

To.一生
8/8 HappyBirthday

産まれてきたお祝いに。
プレゼント、やる。

From.Nico

i 心から礼を言う。うん…、また宝物が増えた。

295. 不動一生
... 2018/08/10...Fri // 23:10:05

(期待が無かった訳ではない。例の、中華料理店で誕生日の話題が出た折の事を、今日は幾度か思い出した。けれど何事もなく過ぎてもまた、良い一日であったのに違いはない。あの新月の日から――遡れば、一年前の夏の入りから。何かの特別がなくとも、思い出す記憶が増える毎にただそれだけで、日々が満ち足りたものに変わっている。贈り物といえばもう十分に過ぎるほどに貰っている)
(8月8日も何事もなく仕事を終えて、いつもと同じくらいの時間に床へついた。就寝して、一時間も経たぬ内にその呼び鈴は鳴った。こんな夜に?規則正しい寝息を立てていた人物とは同一とは思えぬほど瞬く間に冴えた思考は、かちりと部屋の電灯の紐を引いて点灯させる。グレーの綿地の半袖に、黒地に白いラインの入ったトラックパンツ姿でハンガーにかけておいた制服の上着だけ取って階下に降りていく。慣れた急ぎ足はものの数十秒で交番の戸を開けるに至ったが、鋭く視線を走らせても静まり返った暗中には誰も居ない。ただ、遠ざかって行く軽い足音を聞いた気がする)

――、ん?

(突っかけたサンダルの爪先を軽く詰めて、去りゆく誰かを一瞬追いかけようかとも思ったが、やめておいた。耳を澄ませても何の騒ぎもなく、寄せて返す波の音が聞こえるくらいだ。至って、平和な夜だ。大事無いならそれでいい。急速に戻って来た眠気に盛大なあくびを零した直後、滲む視界が掠めた郵便受けの真下。なんだろうか。歩み寄って間も無く、それがラッピングされた箱であると気づいた。両手で拾い上げ、交番の中に戻る。いつもは書類整理に使っている机上へ置き包みを開いた。お目見えした品物、一通の手紙、贈り主。順々に確かめて行ってから、ようやく、自分の頬が緩んでいるのに気づいた。キャップの差し色が赤なのは、自分が赤色好きだと話したのを覚えていてくれていたからだろうか。そうであればどれだけ良いか、とも思った)
(この礼は改めてきっと伝えよう、泳ぎの練習に水着選びに、そしてこの帽子。ツバを持って電灯に翳し、しげしげと眺めてからそれを被ってみて、あれこれと考え始めてから、くあり、と再びのあくび。ともあれ、今は眠っておこう――眠れるかどうかはわからないが――外したキャップはラッピングと手紙と共に大事に抱えて二階に向かう。交番の全ての電灯を改めて消してからも暫く、枕元に置いた品を幾度も見遣っては、喜びを隠しきれずに居た。或る、夜のこと)


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