ぽちくんへ299. いちじょう | |
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(其れを目にして音を聞いた際に、真っ先に思い浮かんだのが彼だった。昨年は”星空”を贈ったから、という事も十分理由には含まれているけれど、彼からは海に纏わるものを貰っているから。同じように、貰ったものを彼へと贈りたい。そうした想いに当て嵌まったのが、手に取ったひとつのオルゴールだった。外見は単なる黒地の箱。其れ程大きくなく、両手に簡単に収まってしまう程度の大きさの箱を開けば、瞳に飛び込んでくるのは深い碧。海を彷彿とさせる色合いの中、奏でられるオルゴールの音色は甘やかで、其れが彼を夢想させたものだから。白の包装紙で丁寧に包まれて、海色のリボンで飾り上げた其れ。例の如く白いグリーディングカードに添えた言葉は、一文字一文字丁寧に、想いを込めて記したものだ。) ぽちくん へ おたんじょうび おめでとう! ことしは おれからも うみを ぷれぜんと! きにいってくれると うれしいな いちじょう (「出来れば、日付が変わって直ぐ届くようにしてください」――そんなお願いをしたのは初めての事だったから、果たして如何いった結果となるかはわからないけれど。此処のところ顔を合わせる事が出来ていないからこそ、こうした日を大切にしたいと思うのは自己満足が過ぎるかも知れない。それでも、少しでも彼と共に在る事が出来ればと思う気持ちに変わりはないから、そうした想いを込めての届け物を、毎年変わらず彼へと贈って。) (――そっと記したグリーディングカードの裏、書かれている一言は走り書き。あいたい。其の思いが、少しでも彼と同じであれば良いのだけれど。) | |
×××302. ××× | |
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(にこっと笑顔を浮かべたその口からはだらしなく涎が垂れている。「え…そのさきいか…全部もらえるの…?へへ……」と呟いたかと思えば、コンコン、と優しく窓が叩かれた。パチッと目を覚ますと、もう随分と見慣れた古い天井。横を見れば、これまた見慣れた顔の老人がいびきをかいて寝ている。そこでもう一度、コンコン、と窓が叩かれた。見てみると窓の外で配達人がちょっと出てこいと手招きをしている。寝ぼけ眼で言う通りにすれば手渡されたのは白い包装紙に目を惹くリボン。「日付が変わってすぐにって言われたから」とだけ言えば、配達人はとっとと帰ってしまった。ぽつんと残されてお礼を言うのも忘れてしまったものだから、それはまた朝起きた時にするとして、今はとにかくこの中身が気になって仕方がない。カードの存在に気付き、いつもの優しい文字に思わず笑顔を零した。黒い箱を取り出して、ぱかっと開けてみれば聞こえてくるのは美しいとしか表現しようのないメロディ。寝起きだったこともあり、まるで夢のようにも思える。その曲に聞き惚れながらなんとなくカードを裏返してみて初めて気が付いた。―ああ、胸が締め付けられる。甘くない、ただ苦しい。その原因を作ったのは、紛れもない自分だから) (いつもは賑やかなそこも、流石にこの時間はしんとしている。かくいう自分もいつもならこの時間は夢の中だ。ここへ忍び込むのももう慣れたものと言うのか、少なくとももうオドオドとすることはなくなった。彼の部屋の前まで行けば、先程の配達人と同じように優しく、コンコンと扉を叩く。彼が寝ているのなら、それでもいいのだ。むしろ出来るならそうであってほしいと思っている自分がどこかにいる) 「一条さん、…もし、起きてたら、朝の6時に海で………、プレゼント、ありがとう」 (静かな声で、あなたが夢の中ならそれを邪魔しないように。予め用意しておいた白いメモをドアに挟めば、そのままその場を去っていく。メモには太陽のようなオレンジで「ありがとう!すごく きれいなおと! 嬉しい! ぽち」という文字の横ににっこり笑った丸い顔が描かれている) (彼が時間通りにそこを訪れようとそうでなかろうと、いつもの日課は変わらない。朝目覚めて、一番最初に向かう場所はいつだってここだから。今日も海を一望出来る大きな岩の上で、朝日に挨拶をして一日を始めるのだ) | |