ポチさんへ301. 杠霧人 | |
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(ポストに投函したのは一枚のポストカード。井戸端で噂になっていたのを聞きつけ、気紛れに準備したものだった。夏を共に過ごした友人との、去年の今頃の会話を不意に思い出して。あのポラロイドカメラは、今この瞬間も彼の『好き』を切り取り続けているのだろうか。昼と夜の合間、夕暮れ時。薄桃色の雲が映える藍闇空と、凪いだ海の写真のそばには祝いのメッセージが添えられている。) 誕生日おめでとう、ポチさん。 去年のこと、ちょっと思い出して送ってみたよ。 オレの撮ったやつ、きれいだったからおすそわけ。 いつかポチさんのもみせてよ。 今年の夏もアンタが楽しくのびのびと過ごせていますように。 | |
きりとくんへ!303. ぽち | |
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(手紙が来るのはいつだって嬉しい。それがなんでもない日であっても同じだ。だが特別な日であれば、もっと嬉しい。送られてきたポストカードはとても綺麗で、思わず溜息が漏れる気が済むまでそれを眺めた後、急いで老人宅へ戻れば押し入れを漁って、例のものを見つけた。ご機嫌そうに鼻歌を歌いながら、ひまわりの絵が描かれている便箋に丁寧に文字を書いていく。わからない漢字を聞きながら、ふむふむと頷いてはそれを真似してみたりして) きりとくん こんにちは! ぽちです! かーど すごく きれいだね! すごく うれしいです! ありがとう! きりとくん ぷろみたいだ! そんけいします! こんど あったとき もっといっぱい みせてね! 去年の わたすの わすれてました! よかったら うけとってね! ぽち (ところどころ文字の間に魚や海の生物が下手くそに描かれている。そして、便箋を入れた封筒の中には一枚の写真が一緒に入っていた。それは去年の夏、たった数日だったけれど家族として過ごした日を写したもの。蜂蜜色のキラキラした髪をしたママと呼ばれた青年と、不器用なエムブルー人形を持った小さな少年、そしてペンギンが2羽。誰一人としてこちらを見てはいないけれど、みんな笑顔だ。こっそり撮っておいたものを渡すのをすっかり忘れていた。とても良い写真だから手放すのが少し惜しいけれど、これは彼に受け取ってほしいから) | |
---304. 杠霧人 | |
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(まるで子供が一生懸命書いた手紙のようだ、と便箋に綴られた文字や絵を見て、蜂蜜は柔らかに和んだ。同封されていた写真はあの夏のきらきらした時間の一欠けら。綻んだ唇が吐き出すのは、) 大事な人が1人、足らねーよ。ったく。 (もしもまた、こんな時間が訪れたのなら…その時は撮影者が映らないなんてことのないように余すことなく切り取ろう。幸い本土より持ってきた己のカメラは自動撮影の機能だってついているものもある。リビングの棚上。フォトスタンドへ写真を飾り、いつかくるその日の為に今日はカメラの手入れでもしようか。) | |