hn4 景虎さんに、新年のご挨拶を。

332. 山田太郎
... 2019/01/03...Thu // 22:47:28

(――できた。と思った瞬間に、燃え尽きていた。自室の机に突っ伏し意識を失った数時間後。前触れなくがばりと起きた神父は、一人あせあせと周囲を見回す――果たして、さっきセーターが完成したのは夢であろうかと。手元を見る。二着一組の毛糸のセーターがそこにきちんと実体をもって存在していた。ああ、よかった。螺旋の凹凸が模様として絡み合うローゲージニットのデザインは二着とも同じだが、使われている毛糸の色が違う。相手に渡す方はローアンバーの落ち着いた色調。自分の分にと作った方はカソックと同じ真っ黒だった。ぱたぱたと暫く教会内に足音が響く――真っ白な包装紙にセーターを包み、ナイトブルーのリボンをかける。キッチンへ下りれば、合間合間に時間をみつけて煮込んだお節を小さめの重箱に詰めていく。一通りの支度が済めば、荷物を両手に裏口から教会を出た。片手には得意げに、クリスマスの折に預かった『秘密兵器』を携えて)

(通い慣れた管理小屋の前に到着する。相手は不在のようだ。手首にセーターの入った紙袋を引っ掛けて、唐草模様の風呂敷に包んだ重箱を片腕に抱えたまま、大事そうに持っていた合鍵を錠に差し込む。かちゃん。半回転し、開錠のしるしが聞こえれば静かに扉を開けた。――幾度となく共に食事を楽しんだテーブルに真っ直ぐ歩めば、まず重箱を、次に隣へセーターの入った包みを袋から出して置いておく。傍にある椅子が無性に、自分を引き留めている気がした。ここへ座って、相手の帰りをゆっくりと待ちたい誘惑が。そっと手袋を外した片手で、角の取れたテーブルのふちを撫でた。長い前髪の奥、双眸が静かに微笑んだ)…ああ、でも、…行かないと。(自分に言い聞かせる独り言が、家主の居ない部屋に響いた。しんと静寂が戻って来るのを待ってから、懐からメッセージカードを一枚。招き猫のシルエットが赤いインクで描かれた名刺大の厚紙には、流れる文字で文字が綴られていた)

『明けましておめでとうございます。お約束の品をお届けに参りました。
 セーターは気づけば徹夜で
(【徹夜で】の文字は慌てた筆跡で二重線により消されている)
 いえ、ちゃんと早起きをして健康的に編み上げました。
 お気に召しますように祈っています。』

(そっと指を組み合わせて、事実祈りを捧げていた。はっと気づき、手を下ろせばいそいそと踵を返す。戸口まで来て、往生際悪くちらりと後ろを振り向くも、それが最後。今度こそ、突然の訪問者は扉を閉めて鍵も元通りに掛け直すと、姿を消した)

hn1 太郎は、良い新年を迎えられたか?

334. アンバー
... 2019/01/09...Wed // 01:59:05

(新年を迎えた島の澄んだ空気は、それが3日目になろうと4日目になろうとその純度に変わりはない。1日の始まりに喜ぶ小鳥たちの囀り。伴う柔らかな陽が昇り始めた頃、墓地見回りを終えた墓守が管理小屋へと帰宅する。…否、果たしてあれは見回りといえたのだろうか。もう随分と装着もせず外出時に持ち歩くだけとなった眼帯を所定の場所にふわりと置きながら、記憶を辿り苦笑う男からは仄かに酒の匂いが漂っていた。―――それは、1つの怪しい影を見つけたことから始まる。墓荒しかと警戒しながら声をかけたところ、一升瓶を片手に千鳥足で陽気に笑う翁と遭遇。聞くに、仲間内で飲めや騒げやの酒盛りをした挙句、解散し帰宅しようとしていたはずが何故か墓地に到着。酒で狂った方向感覚を、懐かしい友人(故人)の導きだとし、こうなりゃ故人とも新年を祝おうじゃないかと、墓前にて1人どんちゃん騒ぎをしていたのだという。(無論酔っ払い故にその説明は大分的を得ず、これは男の推測も多分に含まれる)相手は既に出来に出来上がった酔っ払いで、墓守さん聞いてくれよ、から始まり、ワシの酒が飲めんのか!と一升瓶をつきつけられ、なんだかんだ話に付き合った挙句、空が青白んできた頃に翁が寝始めるという自体に陥り、今しがた交番へと届けた次第であった。)……平成最後の正月の終わりは随分騒がしかったぜ、ったくよ。(なんだかドッと疲れが押し寄せてきた。熱いシャワーを浴び、何か食べ仮眠を…、と気怠い思考を回しながらリビングへ向かう黒檀に映ったのは、重箱。それから何かの包み。管理小屋には鍵をかけて出たはずで、出かけになかったものが、今ここにある、ということは……メッセージカードを手に取り、思い浮ぶ1人。)……睡眠は体調管理の基本だろうが。ただでさえ忙しい時期だろうに、全くあいつは。(二重線に柔らかな叱咤。滲むのは彼の心遣いへの嬉しさと愛おしさ。メッセージカードを大切にテーブルへと置く。重箱の蓋を開ければ綺麗に詰められた正月の味に――ちゃんと飯は食ってんのか?包みを開けた先のローアンバー、柔らかな手触りに――ひと編みひと編み大変だったろう? 気付けば、残り香と対話をしている自分に気付き、小さく微笑んだ。風呂に入り、この手料理を頂戴した後は、手編みのセーターに袖を通し井戸端にでも顔を出してみようか。気怠い疲労はどこへやら、今ではすっかり小さく浮かれはじめていた。たとえ姿は見えずとも、いつでも傍に存在を感じられる。この喜びと愛は、彼の忙しいのが終わってゆっくり話せる機会が来た時に。窓から入り込んだ陽が、いつしか床に小さな陽だまりを作っていた。)

(後日、空になった重箱と共に教会に届けられたのは白い封筒に入った一枚の手紙と)

『年明け早々お前の手料理にありつけるとはな。ご馳走様、美味かった。
セーターも良い出来じゃねえか。そうとも、さすが徹夜で作っただけはある。
…お前が寝不足でぶっ倒れたら
俺を呼ぶよう今度事務員に会ったら伝えておくことにするよ。

寒い日が続いているからしっかり食って寝て、身体には気をつけるよう。

新年を迎えて随分と経っちまったが…今年もよろしくな、太郎。』

(早咲いた時期外れの、青いヒヤシンスが一輪。)


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