e 宿里恭一郎様

347. 黒野
... 2019/03/01...Fri // 00:04:04

(「来年はリボンを巻いて家に来てください」──クリスマスの折のメッセージを思い出し悪戯心が頭をもたげた。恋人の瞳と同じ色の薔薇に白いカスミソウの花束は組み合わせもボリュームもありふれたものだったが、どちらかと言えば本命はメッセージカード。二つ折りのカードに藍色のインクで祝いの言葉を綴ると、紅い幅広のリボンを隙間なく巻き付けていく。さながらミイラの様相だが、巻き終わりをテープで留めてふわりと花の形に膨らませた飾り結びを付ければ、一見して何なのか分からないとしても少なくともミイラではなくなった。我ながら綺麗に巻けたものだと満足気に眺めると、花束と「カード」を手に彼の家に向かう。そのまま会いたかったけれど顔を見たら帰り難くなるのは目に見えているので、ポストの上に花束とリボンでぐるぐる巻きのメッセージカードを置いて──後ろ髪を引かれる思いとしばし格闘の後──踵を返した)


『恭一郎さん、誕生日おめでとうございます。
 大切なあなたがこの世界に生まれた日です、何度おめでとうと言っても足りませんね。
 一緒に乾杯するならこの日を置いて他にないですから、
 クリスマスにいただいたワインを開けてお祝いしたいです。

 都合の良い日を教えてください。待ってます。』


(リボンを巻いて家に来た、ただし巻いたのはカード……と出来心はそこだけに留まらず、リボンを解いてカードを開けば真っ先に目に入るであろう文頭に名前を書いた。フルネームは何度も手紙の宛名に書いていたけれど、ファーストネームだけ書くのは中々に緊張するもので筆跡が少しぎこちない)
……そういうのは直接言ってくださいって言うだろうなあ。(ポケベルが鳴るかも知れないし、電話かも知れない。困ったようなそうでもないような、その感情は口許に微笑となって浮かぶ。こんな悪戯心を起こしたせいで後で何倍にもなって我が身に返ってくるのは百も承知。やはり自制が利かない、困ったと呟くものの家路を辿る足取りは軽かった)

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348. 宿里恭一郎
... 2019/03/07...Thu // 15:11:47

(購入したばかりのシンプルな花器に数日前から花が飾られていた。自然は人の心を和ませるというが、まさしく年度末に向けての多忙を幾度この花が癒してくれたことか。換気の為に開けた窓の隙間から、白いレースカーテンを揺らしまんまと部屋へ侵入した春風が、赤薔薇とカスミソウを優しく撫でる。ソファに凭れ掛かり本を膝上に広げるも形だけであまり読む気が起きず、ふと何気なく見上げた先に映った光景だった。)

(久し振りの休日。開いただけに終わった本をぱたんと閉じ残し、花の傍へ。すぐ近くにはアンティークの小物入れがあり、あの日受け取ったメッセージカードとリボンが大切に保管してある。そっと指先で掬いあげたリボンは滑らかで柔らかい。――あの日、花束とカードを受け取った際に”恋人がプレゼントに込めた意図”に気付き、この柔らかな感触を解きながら奇妙に興奮したのは数日が経った今でも鮮明に思い出せる。拘束がとかれていくカードも、ほどかれ机に広がるリボンも、指先にくるりと絡まる感触すら、”何にでも”連想できてしまって。淡く零れた息に赤い眼が困った風に和らいだ。)

……僕が変な趣味に走ったら黒野さんのせいだ。

(ぼやきは幸福を帯びて、リボンとカードを手に一度本棚へ立ち寄り1冊を手に再びソファへ戻る。リボンとカードを脇に置いて、本を広げ目を通し始めた。今度はちゃんと読まねばなるまい。だってこれは今から必要な知識。まだ礼をちゃんと伝えられていないのだ。ならば会いに行く?否、生憎己の自宅と彼の自宅では距離が少しある。会いにいく時間すら惜しい。自分は今彼の声が聞きたかった。)…意外と、そんなに難しくはないか。(春風が薔薇の花弁をひとひら攫っていくその傍らで、先日手に入ったばかりのコデモが今か今かとその出番を待っている。)

(そう。
彼に告げる一言目はカードに綴られた文面を読んだその瞬間に既に決まっている。)


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