b 神父殿に。

349. アンバー
... 2019/03/14...Thu // 07:11:14

(贈り物というと花を連想してしまうのは、幼心に野花を摘み差し出したときの笑顔が嬉しかったことに帰来する。以来、様々な記念日に自分は花を贈るようになっていた。頭の出来はさほど良くはないから、知識として花々の品種を網羅するほど精通できないしろ、この時期になるとこの花が綺麗だということはなんとなく経験で知っている。すっかり馴染みとなっている花屋、店主は気安い人柄で幾度か飲みにも行く間柄であった。そんな店主から、つい先日こんな話を聞いたのである。始まりはこうだった。―お得意さんだけに教えるんだけどね、実は)

(花屋の主人の住居は、店に併設していた。店の奥へと進み応接間へ通された後、勿体ぶった店主と三十分ほど談笑をし、いよいよお目見えとばかりにそわつく店主の後をゆっくりと歩いていく。店の内観は可愛らしいウッド調の洋風を思わせる構造であったが、住居は一転して日本家屋そのもので大きな窓ガラスからは整備された立派な園庭が広がっている。その一角だ。花壇が据えられ、色とりどりに美しい花畑が広がっていた。好きなだけ持っていていいよ、との言葉に甘えて持ってきた籠に詰んだ花を入れていく。)…すまねえな、代金はどうすりゃいい?(ああ、気にしないで。これからもウチを贔屓にしてくれればいいんだと話す店主に、感謝と共に緩やかに。)なら次回の飲み代は俺が持つぜ。美味い酒をご馳走させてくれ。ああ、但し飲み過ぎると嫁さんに叱られるから程々に、な。(思い出して、喉奥で笑った。一度午前様をして歩くもままならなくなった彼の帰宅に付き添った折に落ちた雷を、今だに覚えていた故に。)

(3月14日、ホワイトデー。ただ短い2つの英単語に込めた己の願いを汲み取りチョコレートとキスを届けてくれた恋人へ、ささやかながらの贈り物を教会の事務員に託す。薄青と黒を基調としたラッピングを解くと小箱。蓋を開けると区切りにそれぞれひとつずつ、ごろりとした大きめの、薄黄金のキャンディーが六つ収まっている。どのキャンディー中央にも、花屋で分けてもらった色とりどりの鮮やかなエディブルフラワーが美しく花開いたまま《時》を止めている。調理時に入ってしまった気泡は花の呼吸か最後の声か、良い塩梅に煌めきのアクセントになっていた。閉じ込めて逃がさない、美しい石の傲慢。しかしその実、石言葉は『大きな愛』などとまったくもって戯れている。これは、琥珀《アンバー》を思わせるキャンディー。バレンタインにチョコレートテイストな恋人の一端を味合わせてくれた礼は、春の香りと、添えられたメッセージカードの『eat me』の言葉遊びと共に。)

毎年、美味いチョコレートを有難う。
……すっかりお前に胃を掴まれて困ったモンだ。

e 有難う、ございます…。…食べるのが勿体ないくらい綺麗、ですねえ。

351. 山田太郎
... 2019/03/14...Thu // 21:57:19

(バレンタインを過ぎても、神父からはチョコレートの香りが漂っていた。この時期は乾燥をして難儀だったが、毎日わくわくとリップバームを楽しんでいるおかげでいつになく調子がいい。説教の途中で唇の端が切れて、痛みに一瞬言葉が途切れるなんていう失態も無い、恋人の力と思い遣りとは偉大である。さて、あれから一ヶ月。本日はホワイトデーである。年度末の慌ただしさも極まる頃合いだが、それはそれ。神父は何やら上機嫌に、本日分の仕事をすっかり片付けた机の上でラッピングに勤しんでいる)
(手元にはキャンディの包み紙に見立てた一枚の小さな包装紙。落ち着いたピンクと薄いブルーのストライプがいかにもレトロである。ころりと掌に乗せたのは大玉飴ほどの大きさのキャンディ――ではなく、石だった。俗にタイガーズアイの名で知られる半貴石は、煌めく金褐色の縞模様が幾筋も入って輝いている。多分話した事は無いのだけれど、自分は常々、この石を見るとその色合いからか、鋭さを思わせる眼光からか、もしくは単純に名前からの連想か、恋人を思い出していたのである。またこれは己の宗派の話ではないのだが、古来より眼を模したお守りは多数存在する。眼に見立てられたこの虎目石も然り、魔除けのアミュレットにもなるという。至極丁寧な手つきできゅっとキャンディ型に包んだそれを色紙のクッションで満たした小箱にひとつ入れる。真っ赤な箱に真っ白なリボンをかけて結ぶと、それを手に立ち上がった。――それと、事務員が室内へ戻ってきたのは同時である)

(――あれえ、山田神父、もう電話終わってたんですか?てっきりまだお話中かと思って、いま、ア)

…景虎さんがいらして、それを託して行ったのだね?ホワイトデーの贈り物か…今年は私が先手を打てるかと思ったが、またもサプライズをして頂いてしまった…。

(――え、怖…なんで『ア』の一文字だけでそこまでわかるの…?ボクの体にカメラとか仕込んでないですよね、神父、ねえってば。あ、聞いてない。全然話聞いてない。まるでボクがポストか何かみたいに品物だけ丁重に奪っていく酷い)
(ささっと、そそくさと。品物を受け取ると、そろりそろりとその箱を開けようとして――その前に、ぴたりと動きを止めた)
…事務君…これを届けてくれたのはつい今しがた、だったね…?
(ええそうです。の一言は確実に間に合わなかった。それを聞く前に黒衣は足早に事務室を出てしまったからである。ああー、こういう時は脚速いんだよなぁ山田神父は、普段はナマケモノかってくらい動作が遅いのに――さて、思い付きで走り出した神父は彼の背中に追いついただろうか。白紙のメッセージカードに綴る予定だった思いの丈は、この口から伝えさせて貰いたい。宝石に見立てたキャンディと、キャンディに見立てた宝石との偶然の一致にもきっと、大いに話の花が咲くだろうから)


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