福永正愛様宛355. ‐‐ | |
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(送り主表記のない贈り物など非常識だ。しかし、人の好い彼ならばきっと多少不可思議に思うかもしれぬが封も開けずに捨てるということはしないだろう。メッセージカードに何を書いていいのか、何を書きたいのか、そもそも書くべきか否か、迷い続けて今に至る。綴り終えて、いざ投函するこの瞬間でさえ迷い続けている。それでも、やっぱりぐだぐだと考え抜いた末に最終的に心に残ったのは、悪い感情ではなかったから。ポストに投函したのは、シンプルにラッピングしたハーブティーの缶。ラベルには「カミツレ」の文字。カミツレの花言葉は『逆境に耐える』『苦難の中の力』…などがあるが、己には到底そんな言葉は分不相応である。だからそんな深い意味などではなくて……このハーブティーを選んだのは、ただあの夜が来る数日前の、至って穏やかな日常に、自分が彼に振舞い喜んでもらった茶葉であったからに過ぎない。缶の中身は空っぽ。代わりに一枚の春色のメッセージカードが入っていた。) また飲みにきてよ (あの時言えなかったことも、伝えきれなかったことも、彼さえ良ければ、またいずれ。まだ友人だと思ってもいいのだろうか。穏やかな蜂蜜色は、指から離れた空き缶に想いを託して。) | |
照れ屋で優しい名無しの君に357. 福永正愛 | |
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(贈り主の不明な自分宛ての荷物が届けられたのは、つい先刻のこと。ありがとうございますと受け取って、本当に自分に宛てたもので間違いないかを何度も確認しながら、とりあえず中を開けてみれば差し出し主が分かるかもしれないし、名前がなくともヒントぐらいは得られるかもしれないと期待を込めて丁寧に中を開封した――その結果。出てきたのは、お洒落なカミツレのラベルが貼られたハーブティーの缶。当然、中身は茶葉であろうと中を開けてみて、目を丸くした。それから、春色の便りを見つけてくしゃりと破顔した。なんだ、わざわざ書かなくても分かるから、書かなかったのか。自身は空と紫陽花の描かれたメッセージカードに返事を綴っていく。) もちろん、喜んで。ただ、お邪魔してばかりも申し訳ないから…次は、僕の家にも招待するね。美味しいお茶を淹れられるように練習しつつ、待ってます。本当に、ありがとう。 (伝えきれなかったこと、伝えたかったこと、山ほど積み残しているのは福永とて同じだから。心を込めたメッセージカードをはちみつ色の封筒に内包して、同封したのは『福永家への招待状』なんてはちみつ色の画用紙で作られた手作り感しかない招待状。それを入れて、大事にポストへと投函しよう。どうか名無しを選んだ彼に届きますように。) | |
‐‐358. ‐‐ | |
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(紅茶葉香るティーカップの横。うっすらと開いた窓からそよぐ風から守るように硝子のペーパーウエイトが乗せられた季節を先どったメッセージカード。もう5月も終わっていくから、…きっと森にもこのカードと同じように色鮮やかな紫陽花色が雨に濡れる様が広がるだろう。もう何度と読んだ同封されていた蜂蜜色の紙面をなぞれば自然と心が穏やかになった。きっと彼も今の自分と同じ気持ちであれば良い。自分達はあの夜にもっと言葉を交わすべきだった。今からでも遅くないと手作りの招待状が背を押してくれる。) (だから。心温まるご招待へのお返事は手に取った携帯電話で。) | |