g 野宮玄二郎 殿

84. ("記入漏れ")
... 2016/05/05...Thu // 22:26:26

きんきゅうじには 『ぽーしょん』が いいらしい

誕生日おめでとう


(ポストカードの裏面には黄熊が向日葵畑で仲間達と遊んでいるシーンが描かれ、表面には今日が誕生日の青年の名前が住所欄に大きく、名前欄には今日の日を祝うメッセージが黄色のペンで綴られている。ポストカードは紙袋に、新品の黒い水筒が購入時の箱とともに入っていた。水筒は新品なれど開封済みらしく、水筒の入った箱の封であるテープには一度剥がした痕がある。購入時の箱の中には魔法瓶仕様の水筒の取扱説明書と、水筒本体。大人用の大きめの水筒を箱から取り出すと、水筒の中から何かがガサガサと擦れる音がするはずだ。――水筒の飲み口のキャップを開けたなら、中から飛び出してくるのはいっぱいに詰め込まれた飴玉である。のど飴や、サイダー味の飴や、駄菓子屋で見つけた大玉の飴。多めに入っているのは『いのちのみなもと』『回復薬』『HP +50』『HP +100 MP +10』と包装紙にゴシック体で描かれた子ども用の飴玉だ。――水筒やバースデーカードの入った紙袋は、青年の家の扉のドアノブに持ち手が提げられている。置き去りの犯行は夜に行われた模様だ。――犯人は散々迷った挙句、ドアノブに紙袋を提げて、もう一つ犯行を残した玄関先の一角を睨めつけて、呼び鈴からは手を放した。元々自ら持ってくるつもりだったがゆえに、ポストカードの住所欄に住所は綴らず、彼の名前だけを記した。名前欄には祝のメッセージを、そしてメッセージ欄には追伸を、)


夏には咲くらしい
多くの種類があるらしい どれかは聞いていない
庭を少し借りられるなら、コンプリートは任せろ


(玄関横に鉢植えを一つ残した。既に種蒔きは終わり、あとは定期的な水やりだけで夏には大輪の花を咲かせるだろう。肝心の花の名前を記し忘れたのには気づかずに、男は玄関を後にする。小さな罪悪感が芽生えてしまったがゆえに、顔は合わせらない。――彼の家の敷地の一角を、向日葵畑にしてしまおうかとひっそり企んでしまったのはまだ胸の内に秘めていよう。帰り道、夜風にくしゃみを一度だけ鳴らして、去っていく。花が咲く日を、その時の彼の瞳はどんな色を映すのか……口の端が緩やかに上がっていく。)

f レアン

88. 玄
... 2016/06/13...Mon // 18:53:55

(その日、仕事明けだった事もあって男の朝は比較的遅めの時間に始まった。未だ寝惚けた侭の男は空腹を満たすべく一旦家の外へと出て、畑へと向かう。味噌汁の具にとネギを確保する為だ。無事確保出来たなら即室内へ。今日も何時もとと変わらずそうしようと振り向いて、其処で初めて扉の前の異変に気付いた。ドアノブには紙袋。扉の脇には植木鉢。先に視線が向いたのは、植木鉢だった。ふと脳裏を過った人の姿にあっという間に眠気等何処かへと吹き飛んだ。双眸を眇め、植木鉢を上から覗き込む。残念ながら何が植えられているのかは男には分からない。其の応えが紙袋の中に入っているだろうか。ネギは一先ず小脇に抱え、紙袋を手に取ると両手で中を漁り出す。箱も気になるが、まずはカードから。何だか黄色い面積が多い其れに描かれたイラストに喉奥が微かに揺れる。差出人の名前は見ずとも誰が置いたか既に気付いていた。さて、今年は何をくれたのだろう。愛しい人からの贈り物に心を躍らせ、黄熊の描かれたカードを裏返し――――瞬きした。「ぽーしょん……?」思わず漏れた疑問は風に乗って消えていく。まさか植木鉢からポーションが生えるのか。否、其れは無い。とすれば、此の箱の中にポーションが。真顔で頭を働かせるが、然程悩む間も無く鳴り響いた腹の音に思考は一旦停止した。植木鉢は一先ず其の儘。紙袋とネギを持って家の中へと入っていった。)


(―――腹は満たさねば。然し、彼からの贈り物の正体が気になる。故にネギを刻み味噌汁に投下したら鍋を温めている間に箱の中身を確認してみる事にした模様。男にしては丁寧に箱を開け、中から水筒を取り出してみる。先程から動かす度に鳴る音の正体は此れらしい。水筒の蓋を開け、徐に水筒を傾けていく。あっという間に机の上に広がるカラフルな物体の正体は、彩良い包装紙の様だ。一つ摘まんでみれば、「いのちのみなもと」と記されている。此れには流石の男も驚愕に双眸を瞠った。まじまじと様々な角度から命の源を見遣り、包装紙を剥き中身を取り出してまた眺め……。最終的に口に放り込み、其れが飴だと分かったのだが、其の頃には他の包装紙も中身も確認済みで。彼らしい、愉快な贈り物に自然と表情は和らいでいた。再びポストカードを眺める。植木鉢の世話は彼も共にしてくれるのだという。ならば何の問題も無い。それどころか、彼からの贈り物は此れからも未だ続くのだと思えば喜ばしい事この上無い。この場に彼の姿が無い事は非常に、とても残念だが、彼の残したポストカードに記された文字の上を指の腹で撫でた。「阿呆め」とぼやく口許は締まり無く緩んでいる。此れは早速、彼に返事を書かなければ。今年の夏は良い夏になりそうだ。こんな素晴らしい幸福に浸る男は、味噌汁が吹き零れる音で漸く覚醒するのだが其れはもう少し先の話。)




俺の特効薬はお前さんからのキスで。

と云うのは冗談でも無いが。祝いを有難うな。
うっかり幸せに浸り過ぎて気付けば今だ。返事が遅くなってすまん。

夏に何が咲くんだ?
どんな花が、何時咲くか。お前さんと其れを眺めて過ごす毎日はきっと愉しいだろう。
庭と云わず、いっそ家に越したら直接祝って貰えるんだろうか。
来年は……否、お前さんの次の誕生日は一緒に祝えたら嬉しい。
直接会って礼が告げられたらもっと嬉しい。



(誕生日から暫く。仕事に追われていた男は漸く落ち着いた頃に筆を取った。白い便箋に白い封筒。宛先には愛しい彼の名を、差出人には男の名を記し、籠いっぱいのトマトと共に配達人へと託した。「カミさんに宜しく頼む」との言付けを一言言い残したのは、幸せを実感したかったからかもしれない。男が珍しく表情を緩めっぱなしだったのが気になるのか、かみさんとは何だと突っ込みたいのか、配達人は何度も男の方を振り返りながら立ち去って行ったとか。)

g (トマトを前に至福の悩みが始まる)

91. Rean
... 2016/06/17...Fri // 22:49:28

(「かみさんって何だったんですかね」「……チョーさん。ジーパン。かみさん。のようなものだろう」そんな会話を玄関先で配達員と繰り広げたのはほんの数分前で、今は自室にこもって籠いっぱいに入ったトマトの山をじっと見つめている。よく熟れた美味しそうなトマトである。数分トマトの山と見つめ合った後、徐にトマトを一つ手にとって台所へ持って行った。調理の過程は唯一つ、トマトの水洗いのみである。洗ったトマトを一口齧り、そのまま丸かじりにて味わいながら、配達員から受け取ったもう一つの荷物を、白い便箋の封を慎重に開けた。――手紙の内容をどんな顔をして読んでいたのか、誰一人として知ることはなく、知られるのも些かどころではなく気恥ずかしい。トマトを一つ味わい終えて、手を洗う。手を洗いながら脳内では返事の内容を考えるが、筆不精にかかると実際にペンと便箋を取るまでには途方も無く時間がかかるだろう。もう一度手紙を読んで、まだ籠いっぱいにあるトマトの山を見つめて、さらにもう一度手紙を読み返しては誰にも見られたくない二十面相を成したなら、手にとったのはペンではなくポケベルだった。――長く言葉を連ねるのも苦手だけれど、さて100文字にどうやってこの歓びを詰め込めるだろう。)


お返事を書く


※半角英数字4-8文字

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