a 大泥棒さんへ!

90. 運命のライバルより
... 2016/06/16...Thu // 03:05:25

(とある梅雨の日。配達人は島のどこかにいる本日の主役を探して雨の中を歩き回るだろう。胸にしっかりと抱えたお届け物は、雨に濡れることを危惧してかビニールに包まれている。丁寧に包まれたビニールをくるりくるりと外して行けば、お次は淡い水色の包装紙が何やら長方形の物を包んでいる。包装紙をがさごそと外すと、紫陽花が描かれたメッセージカードが顔を出す筈だ。)


お誕生日、とってもおめでとう…!


(プレゼントは手作りの花図鑑。とは言え表紙にも裏表紙にも何も書いていないので、開いてみないと正体はわからないけれど。――表紙と裏表紙には厚紙を使い、ページを紐で纏めた手作り感溢れる図鑑は本というよりも旅のしおりや冊子のような見た目だろうか。この島に咲く花を季節ごとに纏めてあり、説明も絵も勿論全てが手書きでそれなりの厚みがある。花言葉や誕生花、その花に纏わるちょっとしたお話などなど、製作者が気紛れだったのか花によってページ数に差があるようだ。色鮮やかな図鑑をぺらぺらと捲っていると、途中に一枚のメモ書きが挟まっていることに気が付くだろう。黒一色で綴られた文字と花の絵は、とある冬の日に切り取られた思い出の欠片かもしれない。)

i 名探偵へ!

92. 大泥棒
... 2016/06/23...Thu // 23:00:52

(探しものは、探している間は見つからないと云うけれど、そんなジンクスが憎たらしい。普段は笑ってばかりの表情も、ここ最近は眉が下がる時間が多くなった気がする。無論当社比故に、他者から見てもこれまでとそう大差は無いだろう。時が経てば経つほど、諦めるべきだとは理解している。雨が降れば降るほど、状況は絶望的だ。何せ探しものは紙切れである。防水加工なんてしていない、ただの紙切れなのだ。けれど己にとっては輝く紙切れである。降り頻る雨の中、今日もあの日の足取りを辿って島をふらりと歩き回る。――そんな時、今日は珍しく配達人に呼び止められた。「なんだ。兄弟も探しものか?」なんて笑いながら話しかけて、少しの世間話を楽しむ。どうやら彼の探しものは己のことだったらしい。配達人から荷物を受け取って受領のサインをしながら、「探しもののコツは?」なんて問うてみるがするに撤回する。「泥棒が尋ねるべきことではなかったな」と肩を竦めて苦笑する。らしくないと思えばこそ、配達人とは間もなくして別れた。それからまたふらふらと歩きまわる一日が始まり、受け取った荷物の中身を確認したのは夜になってからだった。夜の宵宿のカウンター席で、オレンジジュースを飲みながら思い出したように昼間に受け取った小包の封を開けた。――開けて、すぐに、今日一日の無駄な行動を叱咤したくなった。何故もっと早く中身を確認しなかった。探しものは探している間は見つからないと云うけれど、その上探すのを止めたらひょっこり見つかると云うけれど、そんなジンクスが本当に小憎たらしくけれどとても愉快で的を得ていると、声を上げずに笑った。暫く、笑みに崩れた相好は戻りそうにない。)

(一晩掛けて、朝までずっと手作りの図鑑を眺めていた。朝になるとすぐに部屋を飛び出して、図鑑を両手に抱えて花屋へ向かう。図鑑の絵を見せながら、花屋の店主にほしい花を説明するが、時期の関係上すぐには用意できないものもあるらしい。よって入荷を待つこと一週間、――その日も朝一番に花屋に向かった。肩には大きなショルダーバックを下げている。図鑑はコートのポケットには入らなかったのだ。注文していた花の束を受け取り、鞄と花束を受け取り、名探偵の家まで走る。探しものはもう懲り懲りだから、彼が家にいてくれているのを願うばかりだ。走ると肩から吊るされた鞄が腰元で跳ねる。中の図鑑も揺れているようだ。今度は、どんなに走ってももう宝物を落とさないだろう。手作りの図鑑の裏表紙の内側に、あの宝物をしっかり貼り付けたのだから。)

(――走っていると、抱えた花束からダリアの白い花弁が一枚風に舞った。花束には白いダリアに混ざり、青い薔薇も一輪差してある。次は自身が彼に青い薔薇を贈る番だ。花束に挿した白いメッセージカードの一行目には「予告状」の文字が踊る。)


予告状









A


(探偵への予告状は、花束に添えて手渡しが至高であると考える。さて、最高のライバルは家にいるだろうか。事件を追って外に出ているのなら、今度の探しものはすぐに見つかることを祈るばかりである。)

a 大泥棒さんへ!

93. 探偵
... 2016/06/24...Fri // 21:57:38

(――配達完了の報せを受けてから約一週間後の朝。いつも通り6時に目を覚ました探偵は、出来立ての朝食を前にぱちんと両手を合わせていた。テーブルの上にはお豆腐と油揚げのお味噌汁にほかほかつやつやの白いご飯、ふわふわ甘い卵焼きと綺麗に焼けた鮭、ほうれん草の胡麻和えがそれぞれ器に盛られて並んでいる。「いただきます」。一つ一つを丁寧に味わいながら箸を進め、ラジオから聞こえるニュースもしっかりと咀嚼して、今日の予定をゆっくりと組み立てて行く。)

(門に設置したインターフォンが来客を知らせたならば、時計を確かめて不思議そうに首を傾げはするも箸を置いて席を立つだろう。音が鳴るだけで言葉のやり取りは出来ない為、そのまま玄関を出て門を目指す。――開いた門の向こうでライバルが予告状を手に待ち構えているとは露知らず、「はーい」。探偵はゆっくりと門に手を掛けた。)


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