Put VAMPIRE to Flight - とある吸血鬼の敗走

 ――この数年の話だ。
 同胞たち数が減っている――消えている。――消されている。
 うまくやってきたはずだったのだ。月イチの不調さえ乗り切れば、普通の人間と変わりない。化物だなんて自分でさえ忘れてしまうような、そんな日々だったのに、この数年で俺たち――吸血鬼の数は減っているようだ。
 遠くに住む同胞からの便りが途絶えた。血を分け合う仲間が年々減っている。気づけば、先月までよく見かけたヤツが今月はいない。小さな胸騒ぎ、小さな不穏な気配は、しかし確実にすぐうしろまで迫ってきていた。

  「もう最近のことじゃない。この二、三年のことだ」
  「俺たちと同じようなやつらが――」
  「吸血鬼の数が減っている。それも不自然に」
  「吸血鬼が狩られている」
  「俺たちはそのうち大衆たちによって、《ニンゲン》のカテゴリーから外されるだろう」
  「吸血鬼が狩られている」
  「俺や、お前もそのうち」
  「だから俺とともに逃げてくれ――ついてきてほしい」

 震えた声でそう語ってくれたやつも、手を差し伸べてくれてかつての同胞も、
 もう一週間も前から、連絡がつかなくなった。

 ――――新月の夜が明けた朝、いなくなったヤツの言葉を思い出し、港を目指す。もしかしたら、運が良ければ出会えるかもしれない。見つかるかもしれない。
 ついてきてほしいと言われた場所。もしかしたらもう二度と狙われることなく、
 狩れる恐怖を感じることもなく暮らせるかもしれないと言われた土地。――「噂を聞いたんだ。人を襲う吸血鬼だろうと、その人とともに過ごすことができる場所があるらしい。その場所は吸血鬼であれば、誰でも暮らせるらしい。だから、そこへ、一緒にいこう。船が出ていると聞いたんだ。極稀に、あそこの港へ、新月の夜明けに船が停まっているらしい。その船に乗れたなら――」

 港を目指す。――吸血鬼が生きれる場所、……他でもない、俺が生きれる場所を目指して。
 噂の真偽は分からない。けれど――。新月の夜明け、俺は、その一艘を見つける。
 

穏やかな時間は春の中

(おはようございます、おはよう!)
(――何度も繰り返される声に閉じていた目を開ければ、目の前には微笑みを浮かべた青年。)

おはようございます。ぼくは響咲島の役場に勤めているものです。あなたは?
ああ、うたた寝して寝ぼけている島民さんかな? それとも、釈上さんが最近また島の外から連れて来た人かな?なんでも近くの海で事故があったとか言って吸血鬼の人しか、外から連れてこないし……、うーん……。
どちらにせよ、ようこそ響咲島へ。大きなことは何も無いような……、しいていうなら偶にパンダたちの襲撃に遭ったりするような島ですが、ここがあなたにとって素敵なところであることを祈っています。え? 楽園? まさか! こぶたを神と崇める若者の集団に臭い水をかけられたりするような島なのに!
あ、ぼくちょっと野暮用があるのでこれで失礼しますね。また、今度お会いましょう。

(そう言い、パタパタと駆けて行く青年。片手にはスーパー広告。その裏には何かがメモされていた。)
(今日は野菜の特売だ!それに、頼まれた本も返さないと。――嗚呼、時間が足りないなあ。)


(のう、吸血鬼を知っとるか?――あの血ィ、吸う吸血鬼なんじゃけど)
(公園のブランコにて男が繰り返し聞いてくる。西の訛のある声で吸血鬼、吸血鬼。吸血、鬼?)

この島はなあ、なあんか吸血鬼がようけ居るんじゃけど――ああ、そんなに脅えんさんなや。
ここの吸血鬼は普通の奴らとそう変らん。まあ、新月の晩は別なんじゃけえ気ィつけんさい。
それに、吸血鬼の殆どは良い奴等ばっかじゃし……アンタも友達になれるんじゃないんかねえ。
ん、わし?――わしゃ、通りすがりの吸血鬼じゃけど…なにか? ――くっ。あっはっは! うそじゃうそ。やーい、騙されよった。

(くつくつと笑って、ちゃらちゃらした男は何処かへ歩いて行く。背を向けたまま手を振って)
(これから何しようかねえ。あっ、公園のベンチの修理、頼まれとったっけ――)


(………………。………なにかしら?)
(ぱたん、と本を閉じてこっちを見つめてくる、女性。長い黒髪に黒縁眼鏡の、不思議な人。なぜだろう。隣にいながら気づいた、彼女には人の生気が、かぎりなく、薄い。)

あなたは、確か…。………ごめんなさいね、思い出せないわ。まあ、良いでしょう。
もしこの島で暮らしたいと言うのなら、住民登録を済ませなさい。そこの役場で出来るわ。
その前に訴えられたら厭だから諸注意を言わせて貰うから、最後まで聞きなさい。たまに楽園だとか桃源郷だとか勘違いしている人がいるの。いったいどうしてそんな勘違いをしているのかしら。

ひとつ、この島には吸血鬼が――あら、知ってるの?なら話は速いわね。
ふたつ、この島の文明は遅れてる。大丈夫、トイレは水洗よ。
みっつ、この島には女はいないわ。
よっつ、この島の島長は私。つまり、私が一番偉い人。誰がなんと言おうがこれは決定事項。
いつつ、郷に入れば郷に従うこと。貴方が外から来た吸血鬼ならなおさら。あの夜以外に人を襲うことは許さないわ。

以上が諸注意よ。さあ、住民登録を済ませるなら早くしなさい。冷やかしなら早く帰ることね。そうしないと新月の夜に痛い目に遭うわよ。

(そう言って、彼女は役場へ歩いて行く。――ん、彼女?『みっつ、この島には女はいないわ。』)
(私?私は、女よ。この島ただ一人の。名前は釈上忍。好きに呼びなさい。――それから、あなたのことを教えてくれるかしら。)

 

Hibisaki Islander

 響咲島(ひびさきとう)とは、江戸時代後期より島外との交流が無く、ほぼ鎖国状態にある日本の島です。鎖国状態と言っても、文明や情報機器は現在の日本と比べればやや劣るかもしれませんが、文明の利器がまったくないわけではありません。(二つ折り携帯電話やスマートフォンの類が店頭に並んでいない、ポケベル・手紙が主流、パソコンよりもワープロの方が使用者・台数が多いなど。1990年代後半~2000年代前半ごろをイメージしています)。現在の日本と大差が無いのは、島唯一の女性、島長が定期的に船で色々なものを持ち帰ってくるためでしょう。また、モデルは伊坂幸太郎氏の「オーデュボンの祈り」の荻島でした。(大分原型が無くなって来ていますが。何時か喋る案山子をNPCとして登場させたいです。)女性は彼女(島長)以外居らず、男性だけの島となっています。島では病院や美容院、学校などもあり、普通の日本と大差はありません。吸血鬼と共存するいたって平和な島です。

 現在募集している響咲島民さんは二通りです。

◆ ひとつは響咲島に昔から住んでいる方々――生まれた時(三歳以下)から住んでいる方々15年以上継続して響咲島に住んでいる方々です。学生から老人まで様々な職種の方々がいます。警察官も居れば罪人もいる、神父も教師もフリーターもいる、やっぱり普通の日本人と大差はありません。(こちらの応募は吸血鬼・非吸血鬼問いません。「15年以上継続して響咲島に住んでいる方々」の詳細はこちらをご覧ください。)
◆ もうひとつは、最近響咲島で暮らし始めた方々――島長が島外への買出しとともに、船に乗せて響咲島へ連れてくる吸血鬼です。逃亡者や、犯罪者、警察官、様々な方々がいます。ただし現在、こちらの設定(15年継続して響咲島で暮らしていない方々)の募集は吸血鬼のみとなっています。こちらの方の響咲島での居住歴は何年、何ヶ月、何日でも構いません。
 

Vampire

 この世界観、響咲島での吸血鬼は、普通の人間と大差はありません。違いといえば、秀でた部分がひとつだけ必ずあることです。普通の人間なら考えられないほどの脚力が在ったり、頭の回転が速かったり、演技力で人を騙すのが上手だったりなど、一部身体的機能が異常に向上しています。所謂、潜在能力や超心理学的能力を持つ人も稀にいます。昔、響咲島に訪れた人はこれらの能力を超能力とせず、【身体の発達】と記しました。
 またもうひとつの特徴としては血を好んで飲む習性があります。ですがその血も島長が定期的に誰かの血を島外から持ってきて与えているので、それを使用することが殆どでしょう。吸血鬼の吸血衝動や血の好みなどには個体差がありますが、中には好んで人間を襲う者もいるようです。また特筆すべき人間と吸血鬼の違いとして、吸血鬼は月の無い夜は理性が働かず、己の本能のままに血を求めた行動してしまいます。(主にイベントでこの日を使いますので、普段は理性的なままです)

 吸血鬼には生まれながらに吸血鬼の者と、死後、吸血鬼に血を吸われて吸血鬼になった者の二種類が存在します。

 当サイト《響咲島》での細かい吸血鬼の設定は《Q&A》にもまとめています。吸血鬼での応募を考えている方は、ご一読されることを推奨いたします。

◆ 外の世界での吸血鬼について:響咲島の外の世界(日本本土など)でも、極わずかに吸血鬼たちは、ひそかに非吸血鬼の人間たちとともに暮らしています。しかし人を襲う立場、吸血鬼という一般的にはフィクションな存在から、自らを《吸血鬼である》とは隠している吸血鬼がほとんどであり、仮に吸血鬼であると言ったとしても信じてもらえないことが多くであり、最悪傷害などで捕まることもあるでしょう。吸血鬼であるとは隠して、人とともに暮らしているのが島外の吸血鬼たちです。
 しかしこの数年、島外では《吸血鬼が、人間に襲われる・狩られる》状況、《吸血鬼の数が減っている》状況がゆっくりと進行しています。そんな中、吸血鬼たちのみの噂では「吸血鬼と人がともに暮らせる土地があるらしい」「吸血鬼でも命が狙われない場所があるらしい」――などの噂も広まっているようですが、その噂の真偽は噂故に不明のままです。