※半角英数字4-8文字
i 福永正愛様宛

355. ‐‐
... 2019/04/25...Thu // 15:42:01

(送り主表記のない贈り物など非常識だ。しかし、人の好い彼ならばきっと多少不可思議に思うかもしれぬが封も開けずに捨てるということはしないだろう。メッセージカードに何を書いていいのか、何を書きたいのか、そもそも書くべきか否か、迷い続けて今に至る。綴り終えて、いざ投函するこの瞬間でさえ迷い続けている。それでも、やっぱりぐだぐだと考え抜いた末に最終的に心に残ったのは、悪い感情ではなかったから。ポストに投函したのは、シンプルにラッピングしたハーブティーの缶。ラベルには「カミツレ」の文字。カミツレの花言葉は『逆境に耐える』『苦難の中の力』…などがあるが、己には到底そんな言葉は分不相応である。だからそんな深い意味などではなくて……このハーブティーを選んだのは、ただあの夜が来る数日前の、至って穏やかな日常に、自分が彼に振舞い喜んでもらった茶葉であったからに過ぎない。缶の中身は空っぽ。代わりに一枚の春色のメッセージカードが入っていた。)

また飲みにきてよ

(あの時言えなかったことも、伝えきれなかったことも、彼さえ良ければ、またいずれ。まだ友人だと思ってもいいのだろうか。穏やかな蜂蜜色は、指から離れた空き缶に想いを託して。)

355...... 福永正愛様宛 ...... ‐‐  
357...... 照れ屋で優しい名無しの君に ...... 福永正愛
358...... ‐‐ ...... ‐‐


a ニコへ。先月は有難う、花を選ぶのも楽しいもんだな。

352. 不動一生
... 2019/03/14...Thu // 21:58:58

(――警官は物凄い顰め面で机についていた。子供が見たら飛び退かれてしまいそうな真顔だが、別に不機嫌と言う訳では無い。単に真顔なのである。ただの真顔が怖いのである。この男はそういう類なのだ。机上には花束が一つある。マーガレットを束ねて、差し色に桜草を使ったものだ。一ヶ月前のバレンタインに一輪の薔薇を貰ったのがいたく感動したので、自分もお返しにはまず花を用意しようと思った、思ったまでは良かった。が、生まれてこの方、贈り物のためにもそれ以外の用事でも、花とはとんと無縁だった男である。商店街の花屋に通い、図書館で植物図鑑を眺めてもみたが、やはり色と色、花と花の取り合わせは素人にはどうも難しい。第一、そういったセンスも欠乏しているのである。頭を抱えた。そんな折、偶然パトロール中にみつけた小さな草原にマーガレットの群生をみつけた。これだ、と思った)
(風に揺れる白い花弁、明るい黄色はまるで金貨のように輝いても見えた。一番綺麗に見えるひとつを失敬して摘み取り、その脚で花屋へ向かう。これを加えて、花束を作って貰えないだろうかと頼む。――店にあったマーガレットに紛れて、みつけた当人ですらもどれが自分の摘んだものかは最早判別できなかったが、それでも良かった。自分が手ずから選んだ、相手に似合うと思ったものが間違いなくこのブーケを形作っている、という事が重要だったのだ。しかし、花をつかねて抱え歩くのはどうも気恥ずかしい。きもち足早に交番へ戻ると、メッセージカードを引っ張り出してしたためる。花が潰れないよう紙袋へ入れて、一緒に紅茶の茶葉も包んだ。試験管型の瓶に入ったドロップティーは、ハートの形に茶葉が圧縮した茶葉を飴玉に見立てた品で、三粒ほどころりとポットへ入れてお湯を注げばお茶が淹れられるという仕組みである。ストロベリーのフレーバーがあったから迷わずそれを選んだ。入れ忘れたものはあるだろうかと最後に点検してから、郵便を頼むため再び外出した。――無事に相手の手元へ届いた贈り物には、こんなメッセージが添えられている)

先月は薔薇と、チョコと、美味い料理を有難う。
その礼と日頃の感謝を込めて。

(そして、彼に倣って追伸をひとつ)

追伸
菓子も用意したんだが、花束だけで荷物がいっぱいになってしまってな。
都合のつく時間に交番へ来てくれ。夕飯もご馳走したい。

(本当は、小さな箱に入った色とりどりのマカロンは一緒に送れてもしまえたのだけれど。我ながら稚気じみた口実作りだと思いながらの帰り道、奮発して買ったローストビーフは勿論二人分。さて、相手とどうにか都合があうと良いのだが)

352...... ニコへ。先月は有難う、花を選ぶのも楽しいもんだな。 ...... 不動一生  
354...... 一生へ。…ありがとう、すごく綺麗だし花を贈られたのは初めてだけど嬉しかった。 ...... ニコ


e 黒野さんへ

350. 宿里恭一郎
... 2019/03/14...Thu // 07:14:59

(ホワイトデーはバレンタインのチョコレートの買い占めが思うようにいかなかった時のリベンジ日。そんな浪漫もへったくれもない認識は今年からバレンタインの折同様に改めねばなるまいと、返礼の品を求めて宿里は商店街を歩いていた。肩からかけたショルダーバックには本屋で仕入れた参考書代わりの『ホワイトデー特集』なるメンズ雑誌が虎の巻として鎮座しているが、大方はもう昨晩のうちに頭にいれていた為、今日出番が来ることはないだろう。)……さて、と。(様々な候補をふわふわと脳裏に浮かばせ、店を選別する。と、商店街の中で一際人の賑わいの多い一軒が目に留まった。賑わいに呼び寄せられるように向うと、ホワイトデーのお返しの品に力を入れた雑貨屋であった。看板には『ホワイトデーはバレンタインのリベンジ』と意味は違うだろうが、奇しくも自分が考えていたホワイトデーの定義が書かれていたものだから思わずくすりと笑ってしまって。気を取り直すように入ろうとした矢先、とん、と誰かと肩がぶつかった。)…っと、すみません。いえ、…どうされました?(ぶつかったのは学生。つい、そう聞かずにはいられなかったのは彼の表情が曇り空のようにどんよりとしている上に頬はげっそりとこけ、目の下には隈まで携えていた為。面倒事は御免であるが、死人のような表情の彼の瞳に寂寥が宿っていたのを見逃せず、気になってしまったのだからしょうがない。実は…、と話し出す青年。どうやら憧れの慕っていた先輩がもうすぐ卒業してしまうのに自分は勇気が出せずバレンタインに何もできなかった、せめてホワイトデーはと勇気を出してここまでは来たが何を贈れば喜んでくれるのかがわからない、自分はもうだめだ、とのこと。)駄目かそうじゃないかは相手が決めることです、君が決めることじゃない。…なんて言ってもそんな精神論でどうにかなるなら苦労はしませんよね。…そんな君に僕からこれを授けましょう。(鞄から取り出したのは例の虎の巻だった。購入日から読み込んだそれはすっかりと古くされ、至る場所にマーカーや付箋が貼ってあり、品に対する己の考察もしっかりと記載されている。)まだホワイトデーまで数日あります、月並みですけど動かなければ何も始まりません。したいようにしないと後悔しますよ。(先輩のこと好きなんでしょう?と自然赤い眼が優しく微笑んだのは、己らしからぬことは承知した上で、なんとなく恋人とのことを思い出したから。雑誌を受け取った彼を激励し、別れた後は、)全く、……誰に向けて言った言葉なんだか、(途中から自分に言い聞かせているようだった、と苦い笑いは喧騒へと溶けて。)

(それは朝早く、時計店のポストに投函される。結局あの雑貨屋では購入しなかった品は、ホワイトゴールドの薄布でラッピングされたネイルオイルのセット。彼の、なめらかでしなやかな手を爪の先まで慈しみたくて、と身勝手な心より。ボトルはスタイリッシュな細身のもの、香りは彼の好みがわからず結局強すぎず柔らかで、様々な香りを楽しめるものにした。添えられたメッセージカードには以下の様に記されている。)

手を大切にしてくださいね、黒野さん。僕は貴方の手、好きですから。

350...... 黒野さんへ ...... 宿里恭一郎  
353...... 宿里さんへ ...... 黒野


b 神父殿に。

349. アンバー
... 2019/03/14...Thu // 07:11:14

(贈り物というと花を連想してしまうのは、幼心に野花を摘み差し出したときの笑顔が嬉しかったことに帰来する。以来、様々な記念日に自分は花を贈るようになっていた。頭の出来はさほど良くはないから、知識として花々の品種を網羅するほど精通できないしろ、この時期になるとこの花が綺麗だということはなんとなく経験で知っている。すっかり馴染みとなっている花屋、店主は気安い人柄で幾度か飲みにも行く間柄であった。そんな店主から、つい先日こんな話を聞いたのである。始まりはこうだった。―お得意さんだけに教えるんだけどね、実は)

(花屋の主人の住居は、店に併設していた。店の奥へと進み応接間へ通された後、勿体ぶった店主と三十分ほど談笑をし、いよいよお目見えとばかりにそわつく店主の後をゆっくりと歩いていく。店の内観は可愛らしいウッド調の洋風を思わせる構造であったが、住居は一転して日本家屋そのもので大きな窓ガラスからは整備された立派な園庭が広がっている。その一角だ。花壇が据えられ、色とりどりに美しい花畑が広がっていた。好きなだけ持っていていいよ、との言葉に甘えて持ってきた籠に詰んだ花を入れていく。)…すまねえな、代金はどうすりゃいい?(ああ、気にしないで。これからもウチを贔屓にしてくれればいいんだと話す店主に、感謝と共に緩やかに。)なら次回の飲み代は俺が持つぜ。美味い酒をご馳走させてくれ。ああ、但し飲み過ぎると嫁さんに叱られるから程々に、な。(思い出して、喉奥で笑った。一度午前様をして歩くもままならなくなった彼の帰宅に付き添った折に落ちた雷を、今だに覚えていた故に。)

(3月14日、ホワイトデー。ただ短い2つの英単語に込めた己の願いを汲み取りチョコレートとキスを届けてくれた恋人へ、ささやかながらの贈り物を教会の事務員に託す。薄青と黒を基調としたラッピングを解くと小箱。蓋を開けると区切りにそれぞれひとつずつ、ごろりとした大きめの、薄黄金のキャンディーが六つ収まっている。どのキャンディー中央にも、花屋で分けてもらった色とりどりの鮮やかなエディブルフラワーが美しく花開いたまま《時》を止めている。調理時に入ってしまった気泡は花の呼吸か最後の声か、良い塩梅に煌めきのアクセントになっていた。閉じ込めて逃がさない、美しい石の傲慢。しかしその実、石言葉は『大きな愛』などとまったくもって戯れている。これは、琥珀《アンバー》を思わせるキャンディー。バレンタインにチョコレートテイストな恋人の一端を味合わせてくれた礼は、春の香りと、添えられたメッセージカードの『eat me』の言葉遊びと共に。)

毎年、美味いチョコレートを有難う。
……すっかりお前に胃を掴まれて困ったモンだ。


349...... 神父殿に。 ...... アンバー  
351...... 有難う、ございます…。…食べるのが勿体ないくらい綺麗、ですねえ。 ...... 山田太郎


e 宿里恭一郎様

347. 黒野
... 2019/03/01...Fri // 00:04:04

(「来年はリボンを巻いて家に来てください」──クリスマスの折のメッセージを思い出し悪戯心が頭をもたげた。恋人の瞳と同じ色の薔薇に白いカスミソウの花束は組み合わせもボリュームもありふれたものだったが、どちらかと言えば本命はメッセージカード。二つ折りのカードに藍色のインクで祝いの言葉を綴ると、紅い幅広のリボンを隙間なく巻き付けていく。さながらミイラの様相だが、巻き終わりをテープで留めてふわりと花の形に膨らませた飾り結びを付ければ、一見して何なのか分からないとしても少なくともミイラではなくなった。我ながら綺麗に巻けたものだと満足気に眺めると、花束と「カード」を手に彼の家に向かう。そのまま会いたかったけれど顔を見たら帰り難くなるのは目に見えているので、ポストの上に花束とリボンでぐるぐる巻きのメッセージカードを置いて──後ろ髪を引かれる思いとしばし格闘の後──踵を返した)


『恭一郎さん、誕生日おめでとうございます。
 大切なあなたがこの世界に生まれた日です、何度おめでとうと言っても足りませんね。
 一緒に乾杯するならこの日を置いて他にないですから、
 クリスマスにいただいたワインを開けてお祝いしたいです。

 都合の良い日を教えてください。待ってます。』


(リボンを巻いて家に来た、ただし巻いたのはカード……と出来心はそこだけに留まらず、リボンを解いてカードを開けば真っ先に目に入るであろう文頭に名前を書いた。フルネームは何度も手紙の宛名に書いていたけれど、ファーストネームだけ書くのは中々に緊張するもので筆跡が少しぎこちない)
……そういうのは直接言ってくださいって言うだろうなあ。(ポケベルが鳴るかも知れないし、電話かも知れない。困ったようなそうでもないような、その感情は口許に微笑となって浮かぶ。こんな悪戯心を起こしたせいで後で何倍にもなって我が身に返ってくるのは百も承知。やはり自制が利かない、困ったと呟くものの家路を辿る足取りは軽かった)

347...... 宿里恭一郎様 ...... 黒野  
348......  ...... 宿里恭一郎


f 利谷さん

339. 鷲宮八慧
... 2019/02/14...Thu // 00:02:19

(顔を合わせれば、つい居着いてしまいそうで。夜勤明けの彼に無理を強いるのは本意でなく──今日ならば、尚の事。彼は帰宅し、今頃夢の中だろうか。多くの島民が活動し始める朝方、キーケースから合い鍵を取り出す。抜き足差し足、何とやら。勝手知ったる彼の御宅に忍び込めば、無事に寝床へと辿り着けるはずだ。メッセージカードとともに真紅の紙袋をその枕元に置いて、さっさとずらかる前。ふと振り返っては、眠る彼の目元をやさしく撫でた。ひどく愛おしげに、たった一度だけ。)


おはようございます、差し入れです。
眩暈がするって、あんたが言ってて。迷ったんですけど、一応。

いつもお疲れ様です。
次は本物の酒でも。貰った御食事券、まだ使ってないんで。

鷲宮


(とある意趣返しに、差し入れという名目にて。ちなみにこじんまりした紙袋には小洒落たケース──少しは彼の口に合うだろうかと、ウィスキー・ボンボンが五つ。彼の手元に残るのが、店頭のものも含め、このチョコレートだけなら良いのに。ともあれバレンタインデーに、ささやかながら愛を込めて。)

339...... 利谷さん ...... 鷲宮八慧  
346...... --- ...... 利谷趣里


e サチさんに

345. フライパン神父
... 2019/02/14...Thu // 23:01:56

(――久しく彼の姿を井戸端で見かけていない、きっとそれだけ多忙であるのだろう。二年前の今日、例年より早く手に入った塩漬けの桜葉を使って春の便りをこしらえたのだった。神父は讃美歌の一節を口ずさみながら、つい今しがた出来上がった白い大福を小さなプラ製のパッケージに入れていた。まるい手のひら大の、一見するとごくごく普通の和菓子は、見た目通りなら漉し餡がぎっしり詰まっているはずだが。今日と言う日、隣人のトレードマークを鑑みれば、その中身は容易に知れよう。然り、中身は餡にあらず、カカオをふんだんに練り込んだ洋風のクリームだった。互いにくっつかないよう片栗粉をまぶしたチョコ大福を、双子のようにちょこんと並べて蓋をする。袋に入れて、配達を願い出に所定の窓口へと。いつぞやのように直接出向くのも考えたが、きっと日々郵便物を届けに回っている彼らの方が、彼の在宅時間や、迅速な再配達の機微も心得ていようから)

(今年も、実は去年も。カソックコートにはベイクドチョコをずっと忍ばせ続けていた。帰りの道すがら、その一粒を口中へ放り入れる白手袋。笑みの綻ぶ眼差しは、やがてやって来るあたたかな季節の気配を確かに見出していた)

345...... サチさんに ...... フライパン神父  


c 一生に。

342. ニコ
... 2019/02/14...Thu // 19:17:19

(バレンタインなんて正直考えたこともなかったし意識なんてしてこなかった。ただ今年は違う。日が近づくにつれ何をしようかと柄にもなく毎日考えてしまっていた。こんな日にチョコを贈りあう恋人たちなんて別世界の住人と思っていたのにまさか自分がこちら側に回ろうとは。――そんなこんなで当日。花屋の前でうんうん唸っていたら、店員にこういう花籠は?とかこういうブーケは?とか色々勧められたが、これにする。と言って最後には自分で決めた。それは赤い一本の薔薇。本数にも花言葉があるらしいと後から聞いたから知っていた訳じゃないけどなかなか気障になってしまった。相当柄じゃないが、そんなこと言っていられない。一緒に添えたメッセージカードと共に夕方ごろ交番に届けてもらう予定だ)

You're my valentine.

Nico

P.S.チョコが欲しかったら夜ご飯を食べずにオレの家に来ること。

(夕方、彼が何時に来るか分からなかったから用意する夕食のメニューには悩んだ。チーズ入りハンバーグでは冷めてしまったら勿体ない。ステーキもそう、焼き肉だと仕事が長引いてからでは時間がかかってしまうし云々。結果、ビーフシチューに牛肉のタタキにガーリックピラフ、自分のためには料理なんてしないがなかなか良くできたほうじゃなかろうか。バレンタインに用意したのは手作りのチョコクランチ。どれも彼の口に合うといい。――ちなみに、彼が来れなかった時のことは想定していない行き当たりばったりのバレンタインである。)

342...... 一生に。 ...... ニコ  
344...... 花を贈るのも洒落ているな。…俺は食い物の事しか頭に無かったからなあ。 ...... 不動一生


c 神父殿へ

340. アンバー
... 2019/02/14...Thu // 15:20:48

(ピアノ・セーター・タキシード…最近は恋人に『してやられ気味』の墓守は2月14日のバレンタインに備え、今日も頭を悩ませていた。きっと今年も彼からチョコレートが貰えると希望的観測は自惚れではないと願いたい旨はさておき。お返しのジャブを打つべく、いつものごとく商店街を歩く。バレンタインの数日前であり、商店街の店も恋人たちのイベントを意識した装いに変わっている。心なしか甘い香りがするのは道行く人々がどこかそわめき浮足立っているからなのかもしれない。そんな通行人に混じって、墓守もまたのんびりと歩きながら恋人と出会ってからのバレンタインの記憶を辿っていた。2年連続で頂戴したチョコレートの味、管理小屋にて出番を待つロングマフラー、記憶ながら香る赤の衝撃。そう、己はこの日に限っては毎年先手を打たれている。いっそ今年は此方から仕掛けるべきか…。よもや恋人たちの甘いイベントに加わりサプライズ合戦にいかにしてリードを取るべきかとそんなある種の争いも加わっているのは結局は彼を喜ばせたいとその一心により。)………。(閃きを待つように思案の中、眺めたのは一軒の雑貨屋だった。およそ30代後半の男には縁のなさげな内装に躊躇いは刹那、ふらり店内へ足を進める。珍しいね墓守さんがこの店に来るなんて、初めてじゃないかい。そんな店主の言葉に複雑そうに笑うと、店に並ぶ品を見て回る。どれもこれもが手に触れたら壊れてしまいそうな華やかさと繊細さに満ちていて…これを見ながら、これまで自分が選んできた贈り物の”色気のなさ”にハッと気付かされる。悩むこと数十分。良い品はあったかい?と気安く声をかけた店主に、男は苦みの滲むはにかみと共に一つの品を手に取って告げる。)…ああ、柄じゃねえかもしれねえが。これを頼む。

(バレンタイン当日。墓地の清掃前に教会に立ち寄り、備え付けらえたポストへラッピングされた以下の品を投函した。ひとつ、恒例の墓守が愛飲している狼男ブレンド珈琲。そしてもうひとつが、平べったい薄いアルミ缶にぎっしりと詰められたショコラのリップバームである。保湿力はさることながら、蓋を開けるとダークチョコレートとオレンジピールのほろ苦さの中に甘い爽やかさが混じる香りはひとときの和みをどうか届けてくれまいかと選んだもの。まだまだ寒い北風の吹くこの季節、彼の柔らかな唇を護りますように。プレゼントを投函し、墓地へと戻る足取りはゆったりと無意識に片手指先が、自然と微笑む己の唇に触れた。)…さて、神父殿は一体どの意味で捉えてくれるだろうな。(プレゼントにメッセージカードはついていない。ただアルミ缶の底には油性ペンで悪戯に『Kiss you』とただ短い英単語が二つ並んでいる。)

340...... 神父殿へ ...... アンバー  
343...... 大変色っぽい贈り物を有難うございます…化粧品を頂いたのは初めてでした…。 ...... 山田太郎


g 宿里さんへ

338. 黒野
... 2019/02/13...Wed // 17:14:48

(時期が時期なので手紙を添えた箱を見るなり配達人は皆まで言わずとも──むしろ何も言わずとも──分かるといった様子の笑顔で応じる。今更ながら気恥ずかしく、これならクリスマスの時のように直接行った方がと思いつつ「お願いしますね」と時計屋は贈り物を託す。ちゃんと2月14日に配達されるだろう、黒革を思わせる質感の細い箱。白い封筒は蔦の模様が型押しされていて、中には1枚の便箋に綴られた手紙)


チョコレートを家族以外の誰かにあげるのは初めてだと今さら気付きました。
手紙を書いて配達してもらうだけなのに少し緊張します。
これは毎年自分用に買っているチョコレートで、目にも舌にも楽しくて好きなんです。太陽系の惑星と、太陽を模しているんですよ。
宿里さんの口にも合えば嬉しいです。

(封筒の中には便箋の他にカードが1枚。わざわざ得意でもない英語で綴ったのは単に気取ってみたかったのかそれとも照れ隠し、かも知れない)

 You bring color to my new moon.
    Happy Valentine's Day.


(箱には丸いボンボン・ショコラが9粒、一列の標本のように収まっている。ショコラはそれぞれマーブル模様やシックな色で天体写真の通り星を表現していて、味は様々なフルーツやナッツのガナッシュ。星のイメージと味が合うかどうか考えてみるのもまた一興)

338...... 宿里さんへ ...... 黒野  
341...... --- ...... 宿里恭一郎




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