山吹ヒナ様23. 都築あおい | ||
(口をぴったりと糊でとめた真っ青な封筒がぽっこりと膨らんでいる。届け先を口にすれば、配達人が「誕生日ですもんね」と笑う。それに「はい、誕生日ですから」と言葉を返し、笑った――) 山吹くん 8日はキミの誕生日だと風の噂で聞きました。 カギ、もうなくしてしまわないように なくしても、キミの物だと分かるといいな、って思います。 都築 (ブルーの透明石。4mmサイズのそれが円を描いている。彼に似合う色をと思って選んだアクアマリン。本土から取り寄せたそのストラップのせいで膨らんでいる封筒を閉じてから、祝いの言葉を書いていない事を思い出す。けれど綺麗に閉じたばかりのそれを開けるのは何だか憚られて「きっと伝わるだろう」なんて非常に曖昧なまま、配達を頼む事となった。どうか、これからまた一年彼の人生が笑顔で溢れますように。そして彼の幸せを願う奴が此処に居る事が、どうか届きますように。)
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Dear.榊くん9. 西崎イツキ | ||
(海の向こう側。遠い地で手に入れた、赤レンガの並ぶ美しい街の絵葉書。それを手に取って、万年筆にて文字を認める) Dear.榊くん Happy birthday. 思えば、色々と世話をかけていて申し訳ない。 今度こそ穏やかな日差しの中でお茶でも楽しみたいんだけれど… 俺と君の間で、平和な日常は叶うかな? どうか今日が素敵な一日であったように、 少しでも君の心が安らいでいるように、祈って。 From.西崎イツキ (丁寧な文字はさらさらと綴られて、アルファベットは手慣れた筆記体。カードは茶色のリボンがかけられた小さめの白いボックスと共に届けられるだろう。中には琥珀をあしらった万年筆。大切な友人である彼の言葉が、大切な人へきちんと届くように。届き続けるように。)
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榊宛。8. 玄 | ||
(6月30日、早朝。とある男が一人、久遠寺家の勝手口前へと現れた。段ボール一つ分ぎっしり詰められた新鮮な旬の野菜と、それにうっかりしなくとも入り口を塞いでしまうだろう大きな何かを扉の付近に汚れないよう気をつけて置いていく。男がリヤカーを引いて持ってくる程の代物は、持ち運ぶには少々困難かもしれないが、彼ならばきっと大丈夫だろうと信じて疑わない。野菜の上に封書を一通。) 榊、誕生日おめでとう。 野菜は二人に。もう一つはお前さんに。 自室にでも置いて使ってやってくれ。 息災か?相変わらず多忙な日々を送っているのだろうか。 落ち着いたら直接祝わせてくれ。 飯の礼も言いたい。 玄 (それこそ巨体な男がリヤカーを引いて持ってきた物の正体は、全貌を布で覆われた椅子だった。オットマン付きの椅子はマホガニーを用い、クッション部分には良質な綿を詰めに詰め込み、ふんわりとした座り心地に拘った一品。それを白色の布で包み、青色のリボンを巻きつけた代物は果たして彼の御眼鏡に叶うか如何か。ともあれミッションは無事クリアした。無事誕生日に間に合った事に安堵した途端、猛撃な睡魔が男を襲う。一瞬リヤカーの上で寝て行こうかとも思ったが、間抜け過ぎるのと暑くなったら困るので却下。睡眠欲に只管耐えながら、空になったリヤカーを引いて自宅へと戻っていった。)
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ハルへ4. 晴臣 | ||
(大男には似合わないカラフルな、それでいて柔らかい色づかいの便箋。仕事終わりに寄った店には、他にも沢山種類があった。その中でもこの花柄を選んだのは、見ていると彼の明るい笑顔を思い出したから) ハルへ ハル、誕生日おめでとう。 またハルがオレより大人になって、ちょっとさみしいです。 でもハルが、よっぱらうとこは見てみたい。その時は、オレが家まで送ります。 いつもそばに居てくれてありがとう。 ハルが近くにいると楽しいし、うれしいし、安心する。ハルも同じ気持ちだと うれしい。 ずっと大切にするので、これからもよろしくお願いします。 晴臣 (ふぅぅ…と、止めていた息を一気に吐く。メールや電話ばかりに慣れてしまっているから、手紙を書くのは未だに不得意だ。いつもぎこちない、子どもみたいな文章になってしまう。それでも書ききれば丁寧に封をして。彼は喜んでくれるだろうか…?想像しながら、出来あがった手紙を部屋の明かりにかざしてみる。――せっかく取れた休み。今日は自分の部屋で、出来る限りの楽しい時間をプレゼントしよう。いつも甘やかしてもらっている分、沢山お返しをしよう。まずは昨夜書いた手紙から。カフェオレとコーヒーを用意し一息ついた所で、やけに真面目な顔をして渡すだろう。受け取ってもらえたなら、そわそわと正座して。目の前で読まれるのは恥ずかしい、と気付くのは、たぶん彼が封を開けてからだ――)
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桔梗へ6. 矢那瀬ゆりより | ||
(風邪をこじらせ、そして今、――――最愛の人の誕生日に遅れた事に、自分の部屋の布団で芋虫状態になりながらのたうちまわる今。それを見かねた叔父が、「今月のお小遣いかなくなるか、今から謝りに行ってお小遣い倍額かどっちがいい」なんていうもんだから、…いや別に、謝りに行くのが怖かったからこうなっているわけじゃないけれど、いやちょっとは申し訳ない気持ちと恐怖があったのは本当なんだけれども。――――筆を持つ。) 桔梗様 ご飯作る、お風呂も沸かす、俺もやる。 (それを郵便屋さんに渡した、次の日。三徳包丁と鍋と、風呂のたわしと、そしてお泊りセットを持って彼の家へ向かう。)
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