新へ103. 鷲宮八慧 | ||
仕事お疲れ様。 この間はカレー、有り難う。 美味かったよ、ご馳走さま。 機会があれば宵宿へ飲みに行こう。 カレーのお礼というのもなんだけど、その時は俺が奢るから。 秋は台風が多いから気を付けて。 じゃあまた。 鷲宮 (シンプルな便箋に、飾り気のない言葉たち。溢れんばかりである感謝の気持ちを託しているけれど、無事に確と伝わってくれるのやら――。)
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新くん102. 都築あおい | ||
(よく考えるよりも先に体が動いた。暗室の隅に重なっていた小さなダンボールを一つ抱え大急ぎで部屋に戻ると、そこに兎に角詰めていく。塩キャラメル、塩キャラメルチョコ、塩キャラメルチップス、そしてやっぱり塩キャラメル。小さなダンボールはすぐに埋まってしまった。ええとそれから、心なしか焦ったようにも見える表情で部屋の中を見渡して「ああそうだ」自然と声が出た。次に会えそうな時に渡そうと思っていたものがあったんだった。) 新くん 少しでも、きみが元気になれますように 都築 (走り書きした手紙に同封したのは、随分前に彼を写したもの。彼と、それから彼の大切な友達とを写したもの。自己満足でしかないけれど、大切なお友達である彼になにか、したかった。会う度に彼からもらう元気を自分はこんな形でしか返せないことに不甲斐無さを感じないでもないけれど――それらを詰めた小包に封をする頃にはきっと自分の表情も幾分か和らいでいて。)
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かにの山田100. ライアー | ||
ぼく かに なかよしです おみず あげました 山田 まねしてかきました、あっている? むずかしいもじ はかけません はさまれたらいたいよ きをつけてください ライアー (漢字を書いたというよりも線の模写をしたのだろうということがよくわかる。便箋なんて贅沢なものではなくノートの一枚に書かれた手紙は唐突に、海の匂いを乗せて郵便屋の手で届けられただろう。青年は実に気まぐれであるからして。)
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ぽちくんへ98. いちじょう | ||
(先日から自室に置かれたガラスのイルカの傍らで、筆を走らせたのは表面に彼の生まれ星座である獅子が描かれている白いグリーディングカード。この星座に該当する者はこの島に、彼以外にも数名居はするけれど。仮に誰かが記された文面に目を通したとして、誰に宛てたものであるかは一目瞭然である筈だ。――万が一にも送り間違いなど、優秀な配達人が起こすとは思ってもいないのだが。) たんじょうび おめでとう! ことしも おいわいできて うれしいです また あそびに きてください いるかと いっしょに まってます 陽 (書き終えた文面を今一度見直せば、あとは用意していた包みにそのカードを添えるだけ。そうして配達人へと預けられた包装は、小振りな長方形。淡い水色の包装紙に濃い青のリボンがされたそれを開けば、昨年の彼からの返事を受けての“甘い酒”が顔を出す。一条自身も好んで口にする事の多い、レモンを用いたリキュール――リモンチェッロ。なかなかに度数の高いそのリキュールを、彼はどのようにして口にするのだろう――)
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周防。67. 玄。 | ||
(猫の配達人が居ると聞き、頭を過ったのは腹――基、島の獣医の姿だった。目の前には丁度修理を終えたサイドテーブル。「……流石に此れは無理か」至極残念そうな呟きは誰にも聞かれる事無く消えていったが、男の野望迄も消えた訳では無かった。如何しても猫のお使い――では無く、配達猫を使ってみたくなった男は商店街の文房具屋にて桜飾りの便箋を購入。サイドテーブルの出来上がりを知らせる連絡にポケベルの返事も併せ手紙を認めた。) 長らく待たせたが机が仕上がった。病院に届けたので確認してくれ。 気に入らん所があればやり直す。 その時はお前さん家に秘密基地を作りに行くので宜しく頼む。 犬は地面を掘って宝を隠すと聞くが、猫の場合は如何なんだろうか。 お前さん家の隠し部屋が猫の宝部屋になるなら喜んで作るんだが。 本職以外は田舎生活における止むに止まれん事情故か、趣味の都合上でしか動かんが、今回は喜んで手を貸そう。お前さんも動いて中年腹を回避すると良い。 玄 (切ない国家資格保有者に労いを一つ――と考えたのだが、今回配達人は人ではなく猫予定。手紙を送るのが精一杯だろうと別便におまけを乗せる事にして、一先ず出来上がった手紙を手に噂の黒猫を探す旅に出た。天気の良い日中だった所為だろうか。はたまたまたたびの所為だろうか。存外あっけなく商店街にて黒猫の親子らしき3匹組を発見。またたびと共に手紙を預け、ちょこちょこと歩き去っていく彼らを見送った。なんともほのぼのしい光景に心癒された瞬間であった。うっかり癒され過ぎて肝心な机を送り忘れた事に気付いたのは同日夕暮れ。リヤカーに乗せたサイドテーブルを持参し、動物病院の前に置いてみた。サイドテーブルの上には脚の数と同じ分の爪とぎ防止シートとシートの簡易説明書、そして、国家資格保有者を労うべく桜餅が乗っている。裏がマジックテープとなったシートは着脱可能なタイプだが、猫が剥がしてしまわない様にと強力なものを取り付けた為、結構な力を入れなければ剥がせないと思われる。さて。肝心の机は届いたと思われるが、小さな配達猫に託した手紙は無事彼のもとへ届くのだろうか。其れは猫神様のみが知るーーかもしれない。)
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周防せんせーへ80. 亘秋久 | ||
ちょっと見てこれ。 うちの子すっごくかわいい。 せんせーが名前つけてくれた小鳥改め殿ははすくすく元気に育ってます。 (桜の切手が貼ってあるこれまた桜模様が散りばめられた便箋の中には、手紙と写真が一枚。ちょっと散らかっている部屋の中で、サメの抱き枕に体を預けるように座っている小鳥の写真である。何故か小鳥の傍らには一升瓶とコップがお供えのように置かれているのだけれど。まあ要するに色んなことを含めての自慢の手紙のようだ。)
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大泥棒さんへ!90. 運命のライバルより | ||
(とある梅雨の日。配達人は島のどこかにいる本日の主役を探して雨の中を歩き回るだろう。胸にしっかりと抱えたお届け物は、雨に濡れることを危惧してかビニールに包まれている。丁寧に包まれたビニールをくるりくるりと外して行けば、お次は淡い水色の包装紙が何やら長方形の物を包んでいる。包装紙をがさごそと外すと、紫陽花が描かれたメッセージカードが顔を出す筈だ。) お誕生日、とってもおめでとう…! (プレゼントは手作りの花図鑑。とは言え表紙にも裏表紙にも何も書いていないので、開いてみないと正体はわからないけれど。――表紙と裏表紙には厚紙を使い、ページを紐で纏めた手作り感溢れる図鑑は本というよりも旅のしおりや冊子のような見た目だろうか。この島に咲く花を季節ごとに纏めてあり、説明も絵も勿論全てが手書きでそれなりの厚みがある。花言葉や誕生花、その花に纏わるちょっとしたお話などなど、製作者が気紛れだったのか花によってページ数に差があるようだ。色鮮やかな図鑑をぺらぺらと捲っていると、途中に一枚のメモ書きが挟まっていることに気が付くだろう。黒一色で綴られた文字と花の絵は、とある冬の日に切り取られた思い出の欠片かもしれない。)
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野宮玄二郎 殿84. ("記入漏れ") | ||
きんきゅうじには 『ぽーしょん』が いいらしい 誕生日おめでとう (ポストカードの裏面には黄熊が向日葵畑で仲間達と遊んでいるシーンが描かれ、表面には今日が誕生日の青年の名前が住所欄に大きく、名前欄には今日の日を祝うメッセージが黄色のペンで綴られている。ポストカードは紙袋に、新品の黒い水筒が購入時の箱とともに入っていた。水筒は新品なれど開封済みらしく、水筒の入った箱の封であるテープには一度剥がした痕がある。購入時の箱の中には魔法瓶仕様の水筒の取扱説明書と、水筒本体。大人用の大きめの水筒を箱から取り出すと、水筒の中から何かがガサガサと擦れる音がするはずだ。――水筒の飲み口のキャップを開けたなら、中から飛び出してくるのはいっぱいに詰め込まれた飴玉である。のど飴や、サイダー味の飴や、駄菓子屋で見つけた大玉の飴。多めに入っているのは『いのちのみなもと』『回復薬』『HP +50』『HP +100 MP +10』と包装紙にゴシック体で描かれた子ども用の飴玉だ。――水筒やバースデーカードの入った紙袋は、青年の家の扉のドアノブに持ち手が提げられている。置き去りの犯行は夜に行われた模様だ。――犯人は散々迷った挙句、ドアノブに紙袋を提げて、もう一つ犯行を残した玄関先の一角を睨めつけて、呼び鈴からは手を放した。元々自ら持ってくるつもりだったがゆえに、ポストカードの住所欄に住所は綴らず、彼の名前だけを記した。名前欄には祝のメッセージを、そしてメッセージ欄には追伸を、) 夏には咲くらしい 多くの種類があるらしい どれかは聞いていない 庭を少し借りられるなら、コンプリートは任せろ (玄関横に鉢植えを一つ残した。既に種蒔きは終わり、あとは定期的な水やりだけで夏には大輪の花を咲かせるだろう。肝心の花の名前を記し忘れたのには気づかずに、男は玄関を後にする。小さな罪悪感が芽生えてしまったがゆえに、顔は合わせらない。――彼の家の敷地の一角を、向日葵畑にしてしまおうかとひっそり企んでしまったのはまだ胸の内に秘めていよう。帰り道、夜風にくしゃみを一度だけ鳴らして、去っていく。花が咲く日を、その時の彼の瞳はどんな色を映すのか……口の端が緩やかに上がっていく。)
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ツナッシー和尚77. みんな大好き獣医師さんより | ||
(確か、彼の誕生日は今月初め。随分と遅れてしまったものだと、大分散ってしまった桜の木を見上げながら歩を進める。まぁ、きっと彼なら許してくれるだろう。風呂敷に包まれた箱を両腕に抱え、黒猫と共に男は蛍寺へとのんびり向かおうか。――蛍寺か屋敷か、どちらにするか少し悩んだが、結局は寺の入り口付近に風呂敷を置くことにした。その内、彼が見つけてくれるだろう。メッセージカードに宛名も書いた故、きっと問題は無いと思う。そんな周防の考えが叶ったなら、彼は見事にビックリお祝い箱の餌食になっている筈で。無事に任務を終えた周防は、達成感を顔に浮かべながら宵宿へと直行するのだった。) 『Happy Birthday!Tsunashi!』 (風呂敷包みの中。綺麗にラッピングの施された箱を開ければ、パンッ!という破裂音と共に、桜を模した紙吹雪が宙を舞う。同時に、誕生日を祝う弾幕と共に、可愛くない黒猫のぬいぐるみが飛び出す仕組みである。そして箱の奥、ちゃっかりと新品のバリカンが潜んでいるのに気付いたなら、テープで貼られた『楽しみにしてるぜ』とのメッセージカードも直ぐに見つけられることだろう。)
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