リーダーさん267. ××× | ||
(バレンタイン当日。甘い香りのする届け物を託された郵便屋さんが本日中に彼の人を見つけることが出来たなら、ラッピングされたミニサイズのガトーショコラとチョコクランチが一つずつ収まったシンプルな箱を手早く渡して行くだろう――。)
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墓守の旦那258. 利谷趣里 | ||
(十九日の次が二十五日であることで己の芸のなさが露呈することについて男は頭を抱えていた。――が、現時点での主題はそこではない。酒を奢ると約束した相手にひとまずの礼を伝えようと連絡の手段を探してみれば、季節柄か店先に並ぶのは華やかなクリスマスカードばかりである。それもまた一興と手に取ったのは、白髭のサンタが疲れ果てて床に伏している横で二頭のトナカイが酒を酌み交わしているという何ともシュールな絵柄であった。) その節は世話になった。ありがとさん。 約束通り酒でも奢るわ。忘年会でも新年会でも、都合のいいとき声掛けてくれや。 (例えば自腹でクリスマスケーキのひとつでも購入して贈るべきかとか、或いはチキンなら複数あっても後日に回せまいかとか、そんなことを思ったものの、彼の伴侶は正に今が繁忙期であることを思い出せば顔を付き合わせて主の誕生を祝っている場合でもないかと思ってとり止めた。代わりに鳩の形に掘られた石製の小さなモチーフをふたつ添えておく。恒例の箸置き――それは彼が誰かに贈るばかりで、彼自身が持っているのかは定かではなかったから――にしてくれても構わないし、文鎮にするにも役立つだろう。何にせよ、より具体的な礼とその他諸々に関してはまたの機会を楽しみに。)
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福永の坊246. 狐 | ||
(――その文からは爽やかな甘さが仄かに香る。) 季節は移ろい夏から秋、冬へ向かおうとしておるが、元気にしとるかのぅ…? 文を認めるのが遅ぅなってしもうたが、その節は世話を掛けてすまなんだ。 顔を合わせたのは夏であったが、春の木漏れ日のようなおぬしの優しさが今も胸に沁み入っておる。 …詫びとも礼とも云えぬが、馴染みの甘味処にて先日"団子無料券"なるものを得た故、足を運ばせてすまぬが是非一度、父君や友と語らいながら舌を喜ばせてくれれば幸いじゃ。 爺は中でもみたらしを一等好いておるぞ。 ―時に、数日の後には坊が一つ歳を重ねると耳にした故、気が早ぅてすまんがわしからも言祝ぎを。 染まり行く葉のように深みのある日々を過ごす事を願っておる。 無料券と共に同封した文香は学び舎の供に、と。 (香りを纏う和紙は三日月型に抜かれた藍色の栞。)
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亘 秋久 さん259. サンタ | ||
Merry Christmas! 欲しがっていたものかはわかりませんが サンタさんからのクリスマスプレゼントです。 良い一日を。 (白いプレゼントボックスに緑と赤色のリボン。中身は革で出来たシンプルな小銭入れ。朝一には届けられなかったけれどそこはご愛嬌ということで許して欲しいと思いながら風に乗ってやってきたサンタは風に乗って帰っていく――。)
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八慧さんへ254. 花野紅より | ||
(本日の主役であるサラリーマンさんのもとに届くのは柔らかな夕焼け色の包装紙に包まれた丸い箱。白いリボンをしゅるりと解くと、可愛らしい猫が十数匹顔を出す。さくさく食感のクッキーはプレーンとココアとハニージンジャーの三種類で、中には一つだけ、二匹の猫が寄り添って尻尾でハートを描いている凝った形のものが混ざっているだろう。王冠型のバースデーカードには海を連想するエメラルドの言葉が泳ぐ。) お誕生日、とってもおめでとう…! 困ったことがあったらいつでも呼んでおくれ。 いっぱいいっぱい、幸せになぁれ。 (ちょっぴり不器用で寂しがり屋な彼が、もう迷子になりませんように。優しい迷子くんの手を引いてくれる人がいるのは勿論知っているけれど、もしものときはぼくもいるからね?――なんて、言葉にしなくてもきっと彼には伝わる気がした。)
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墓地の守り手殿255. 通りがかりの黒衣 | ||
(腕には一抱えの白百合。墓標のひとつひとつを巡りながら指を組み合わせ、後に白い花を置いていく) (点々と升を辿るように。気の長い双六のゴールは墓地の管理小屋だった。墨絵のような黒い人影は白い息を零して建物を見上げる。知らず、唇に笑みが伝った) (白百合は全て置き終え手元にはない。代わりに、たった一輪だけ用意した別の花をもって歩み出る。管理小屋の主に宛てて。窓辺へ置いたのは赤い薔薇。白百合同様、聖母に縁のある花だが、託された花言葉は随分と意味合いが違う。この一年でなんとも深い色を吸い上げたものだと目を細めた) (どうか今日という日も。これから続く日々も彼にとって喜びに満ちたものでありますように。その時間に、叶うなら少しでも自分の居場所が許されたなら、それ以上は望みません――どうか。十字を切って黒衣は踵を返す。脳裏で回り始める記憶の上映。振り返る過去は気づけば鼻の奥が優しく痛むほど、どれもこれもが温かかった)
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新247. --- | ||
(肌を指す寒さに眉間に深い皺を刻んだ黒尽くめの悪人面が花都通りに近い一軒家に足を運ぶのは二度目となる。とあるクソ暑い日に巻き込まれたクソ面倒な出来事は結果的に男が運び屋の荷物となって予定より早く幕が下りた。突然の体調不良でその後も数日熱に浮かされた為あの日の記憶は曖昧だが、爽やかな青年に似合いの青い相棒で運んでもらった事は朧げに憶えており、その後詫びの一つも入れていない事を何だかんだ気にしていた、――かは定かでないが、兎に角男は此処に来た。ガチャガチャ音を立てるレジ袋には栄養ドリンクに喉飴にスポーツドリンク、更には使い捨ての温熱アイマスクも入っているのは、季節の変わり目が云々と言っていたのを小耳に挟んだからかは以下略。男はそれをドアノブに引っ掛けると、寒さ故か足早にその場を去った。)
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山田サンへ251. 向坂侑人 | ||
(友人へのメッセージカードや父親へのメモと違って、多少でも改まった手紙というのに慣れていない。葉書…では違うような、便箋と封筒はセットのものを使えば良いのか、いろいろと考えたものの、結局父親のものを拝借してシンプルな──「田舎の親から届いた小包に同封されていそう」と本人は思った──白い封筒に便箋。封筒は中が透けないよう紫の薄紙がついている。そこに記される宛名や差出人の文字は、どこか古風な封筒には似合わないざっくりとしたものだ) 手紙、ずっと書こうと思ってたのに遅くなりました。こういうの慣れてなくて、季節の挨拶とか書いた方がいいのかも知れないけど省略させてください。なんか照れ臭いし。 2月のときは、いろいろ言い過ぎてすみませんでした。オレはやっぱり山田サンの考えと違うところがあるし、いろんなこと、ちゃんと分かるのにまだ時間がかかると思います。でも、言いすぎたっていうか。相手を尊重するとかそういうのが、足りなかったんじゃないかなって、後から思ったんで。 オレは山田サンのこと、まだ全然知らないんだと思いますけど。やっぱ、それでも、山田サンがこの島で楽しく暮らせるんならそれが一番いいって思います。…何書いてるのか分かんなくなってきたな。 最近急に寒くなってきたんで、風邪ひかないように気を付けてくださいね。 P.S. オレ、あの日からいろいろ考えて、新月の夜に出歩くの休んでます。今考えてることにケリがついたら、休むんじゃなくてやめるのか、やっぱりやるのか決められるかな。 (流石に、普段話すような言葉で書くものではなかろうと思う。しかし図書館で調べた手紙の書き方の本は言葉が堅苦しくて、自分がそれを書いたら上っ面のものになりそうで…普段よりほんの少し言葉を丁寧にしただけになった。投函してから、手紙を書く練習をしておけばよかったと渋い顔をして…けれど家路につく足取りはどこか軽やかに)
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ライくんへ250. 花野紅より | ||
(藍色のマグカップの彼が島を出てから季節は移ろったが、彼を慕っていた白いマグカップの友人はさみしい思いをしていないだろうか。こんな寒い日は心がきゅうとするかもしれない。暦の上ではまだ秋だけれど、真っ白い雪うさぎの形をしたカードを選ぶと、ちょっぴり首を傾げてからペンを滑らせる――) さむくないかい? (柔らかなあたたかさのあるクリーム色の文字はただそれだけ。大事な友人が震えて過ごしていなければいいな。そう思いながら書いた短いメッセージは、郵便屋さんに運ばれてしろサンタくんの元へぴょんっと跳んでいくだろう。)
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